女性、高齢者、外国人労働者で労働力を確保

シンガポール女性の「年齢階級別労働力率」を見ると、25~29歳で88.6%、30~34歳で83.3%、35~39歳で80.9%、40~44歳で78.1%が労働市場にいることがわかります。これに対して、日本はそれぞれ79.3%、71%、70.8%、74.3%。全年齢を通してシンガポールよりも女性活用が遅れており、30~34歳の「M字カーブ」が依然として存在することがわかります(国際労働比較データブック2016)。

その大きな要因は、シンガポールでは女性が働くインセンティブが大きいのに対し、日本では収入を扶養内に抑えようというインセンティブが働く制度設計になっているためです。

日本では2017年10月から育休の2年延長が施行されました。一方、シンガポールでは、出産の1カ月前まで働き、産後3カ月程度で復帰するのが一般的です。無痛分娩や産後ケア、オーガニックミルクが充実しており、保育園や外国人ヘルパーという受け皿が充実しているため、女性の早期職場復帰が当たり前になっています。

そもそもシンガポールには長期育休向けの給付がほとんどありません。このため育休期間が長期化すると収入が途絶えるため、生活が厳しくなってしまいます。さらに、CPF(Central Provident Fund:中央積立基金)という確定拠出年金のような仕組みがあり、育休が長引くと毎月の積立額が減るため、将来もらえる年金も減ってしまいます。その結果、おのずと早期復帰を選択するようになるのです。

一方、日本では産休に加えて育休があり、最長で子どもが2歳まで給付を受けられるようになりました(2017年10月から)。また、産休・育休中の社会保険料も免除になるのでゆっくり休もうというインセンティブが働きます。

シンガポールにも配偶者控除はありますが、収入上限が年間32万円以下と低く、控除額もわずかです。そのため、配偶者控除の範囲で働くという発想にはなりません。シンガポールでは専業主婦家庭でも保育園を利用することができますが、ワーキングマザーはより多くの助成を受けられるようになっています。

日本のように「勤め先がないと保育園を利用しにくい」ということもないので、出産を機に離職しても、保育所に子どもを預けながら再就職活動ができ、結果的に労働市場に戻りやすい仕組みになっています。また、「世帯収入が高いと保育園に入りにくい」ということもないので男性も女性も天井を考えずに働こうという意欲がわくのです。