朝鮮半島の「非核化」をめぐって、中露韓朝4カ国が急接近している。日本は「カヤの外」に置かれたままでいいのだろうか。国際政治学者の櫻田淳氏は、「焦ることはない。特に中露朝3カ国は専制や強権を志向しており、自由、民主主義、人権などを重視する欧米とは『文明圏』が違う。日本はぶれずに後者の『西側』に立ち続けることが重要だ」と指摘する――。
4月27日、板門店での南北首脳会談に臨む金正恩・北朝鮮労働党委員長と、文在寅・韓国大統領(写真=KBS/AFP/アフロ)

「日本は蚊帳の外」論が見落としていること

平昌五輪・パラリンピックという催事の後、朝鮮半島情勢が急に動き出したようである。南北首脳会談と米朝首脳会談の開催が合意された他に、金正恩(北朝鮮労働党委員長)は北京を電撃的に訪問し、習近平(中国国家主席)との中朝首脳会談に及んだ。4月27日には、板門店を舞台にして文在寅(韓国大統領)と金正恩が会談した。

こうした朝鮮半島情勢の「変動」を前にして聞かれるのが、「日本は蚊帳の外に置かれている」という声である。もっとも、現下の朝鮮半島情勢に絡む「表流」の変化のみならず、東アジア・西太平洋における国際政治上の「底流」に目を向けたならば、そこには、どのような変化があるのであろうか。この点を見極めずに、「日本は蚊帳の外に置かれている」といった反応をするのは性急に過ぎるであろう。

筆者は、昨年12月、本誌に3度にわたって寄せた連載論稿『米中両国のはざまの日本の選択・序、破、急』の中で、梅棹忠夫(生態学者)の「文明の生態史観」学説に依拠しながら、日本と中国が互いに異質な「文明」圏域に属することを指摘し、それこそが中国主導の地域秩序を受け容れられない日本の人々の心理を裏付けるものであると論じた。

梅棹の「文明の生態史観」学説では、ユーラシア大陸の両端にある日本や西欧諸国(「第一地域」)、そして大陸中央にある中国、インド、ロシア、トルコの旧4大帝国(「第二地域」)は、互いに異なる文明領域に位置づけられる。前者が中世封建制の永き歳月を経て、自由、民主主義、人権、法の支配といった近代価値意識を育んだのに対し、後者は古代専制から一足飛びに近代国際政治体系に組み込まれた。

韓国文明の「表層」より「底層」を反映する文在寅外交

そして、朝鮮半島については、梅棹は中国と同様に「第二地域」に含まれると示唆している。この示唆は、金正恩体制下の北朝鮮については明らかに妥当するかもしれないけれども、韓国については若干の留保説明が要るであろう。韓国の「文明」構造は、朝鮮王朝時代以前の「第二地域」(「中国」文明圏域)としての厚い文明の「底層」の上に、日本の植民地支配や朝鮮戦争後の米韓同盟の影響による「第一地域」(「日本」文明圏域/「西欧」文明」圏域)文明の薄い「表層」が積み重なったものであると説明できる。