自分自身を過大評価「オーバークレーミング」の生態

この新入社員が「親にも教師にも怒られたことがない」のは、おそらく本当だろう。学業優秀だったので、大学を卒業するまで親にも教師にも叱られた経験がないまま、就職したのではないか。

当然、自尊心は高いはずで、自分は何でも知っていると思いたがる。こういう知ったかぶりを心理学では「オーバークレーミング」と呼ぶが、この新入社員はその典型のように見える。

「オーバークレーミング」の新入社員は、わからないことがあっても、一切質問せず、自己判断で進めてしまった。これは自信過剰のせいだろう。こうした自信過剰は、自分自身を過大評価しているせいである。

▼「注意するのが怖い」という上司「自己愛過剰社会」の弊害
※写真はイメージです(写真=iStock.com/SIphotography)

この手の新入社員が最近増えているようで、企業の管理職の方と話すたびに、「どう対応すればいいのかわからない」「注意するのが怖い」という声を耳にする。

その背景にあるのは、「自己愛過剰社会」とも呼べるほどナルシシズムが蔓延した日本社会だ。その一因に自尊心の過度の重視があるのではないか。

もちろん、自尊心は大切だと私も思う。ただ、自尊心の重要性が強調されすぎた結果、勘違いした親や教師が増えているように見える。

どう勘違いしているかというと、ほめれば、ほめるほど、能力が伸び、成績が上がると思い込んでいる。なかには、わが子に「お前は特別だ」と言い、望むものを与えれば、自尊心を高められると思い込んでいる親もいるようだが、残念ながらそれはナルシシズムに火をつけるだけだ。

結局、「本当は駄目なのに自分をすばらしいと思うのはナルシシズムへの近道なのだが、多くの親と教師はそれを自尊心と呼び換えて日々子供を励ましている」(ジーン・M・トウェンギ、W・キース・キャンベル『自己愛過剰社会』)。

このように子どもを甘やかし、ほめそやす風潮に拍車をかけているのが少子化だ。まるで王子様や王女様のように子どもを大事に育て、自尊心を傷つけてはいけないとの配慮から、叱らない親が多い。

一方、教師の多くは、目に余る言動があれば生徒に注意すべきだと思ってはいるものの、なかなか叱れない。へたに叱ると、親に怒鳴り込まれかねないからだ。

ある小学校では、校長が「今は子どもの数が少なくて、どの保護者もちょっとしたことに文句をつけるし、教育委員会に通報されては大変なので、気をつけてください」と日々教師に注意しているらしい。それだけ親からクレームがくるわけで、多くの教師は親からのクレームに戦々恐々としている。