※本稿は、エリック・バーカー・著、橘玲・監訳『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
ゲームの中毒性を「いいとこ取り」する方法
「もしも退屈というものに抵抗力ができれば、成し遂げられないものは文字通り何もない」
いろいろな意味で、この言葉は真実だ。たとえばあなたが決して退屈しない人間なら、かなりコンピュータに近づいている。コンピュータはありとあらゆる退屈な作業を人間に代わってこなしてくれる。しかも迅速かつ完璧に。
コンピュータには、ゲームのメカニズムがまったくいらない。退屈とも意欲の低下とも無縁だからだ。それでいて、人びとのオフィスは、まるで機械のために設計されているようだ。人間はコンピュータではないのに。マルクス経済学は多くの点で間違っていたが、今になって正しかったと言えることがいくつかある。労働者から仕事との心情的なつながりを奪い、彼らをただ成果を生みだす機械として扱うと、労働者の魂を殺すことになる、というのがその1つだ。
それでは、奪われた情緒的要素を元のように戻すことはできるのだろうか? もちろんできる。しかも、じつはそれほど難しいことではない。
「めそめそ泣いて(Whiny)、去勢された(Neutered)ヤギたちが(Goats)空を飛ぶ(Fly)」。このイメージを頭に描こう。あなたはたった今、面白いゲームすべてに共通する4文字を知った。頭文字を取って「WNGF」だ。なぜなら、面白いゲームに含まれる共通要素は、勝てること(Winnable)、斬新であること(Novel)、目標(Goals)、フィードバック(Feedback)の4つだからだ。
何かにたいしてイラつくなら、それはたぶん、この4つの要素の少なくともひとつが欠けているからだ。では、1つずつ見ていこう。
【1】Winnable:粘り強くやれば必ず勝てる
良いゲームは、プレーヤーが勝てるデザインになっている。デザイナーたちは、勝てないゲームをつくらない。ゲームには明確なルールがあり、私たちは本能的にそれがわかり、粘り強くやれば勝算が見込めると判断できる。つまり、楽観的になれる正当な根拠が得られるわけだ。ゲームはすべてのプレーヤーを、ジェームズ・ウォーターズのように、地獄の訓練を耐え抜ける人間に変えてくれる。
この「正当な楽観主義」は、困難なことを面白くしてくれる。ゲームは時として実生活より難しい。しかし、ゲームは難しいからこそ面白く、易しければつまらない。ゲームコンサルタント会社社長、ニコール・ラザロの調査によれば、プレーヤーはゲーム中の約80%は失敗しているという。研究者で、オンラインゲーム・デザイナーでもあるジェーン・マクゴニガルは次のように説明する。
プレーヤーは、だいたい5回中4回はミッションをクリアできず、時間切れになる、パズルを解けない、戦闘に勝てない、点数をあげられない、衝突して炎上する、死亡する、といった結果を迎える。そこではたと疑問が湧く。果たしてプレーヤーは、失敗しても楽しんでいるのだろうか? じつはそうなのだ。よくデザインされたゲームで遊んでいれば、失敗してもプレーヤーは失望しない。むしろ一種独特の幸福感を得る。彼らはワクワクし、興味をかき立てられ、なにより楽観的な気分になる。