日本発だった家庭用ビデオ、CD、液晶テレビ……

日本の家電産業は、かつては世界に先駆けて新しい価値を生み出すことが非常に得意でした。家庭用ビデオやCD、そして液晶テレビのコンセプトなどは、いずれも日本のメーカーから生まれたものです。技術的に優れた製品を作り出し、それが消費者に受け入れられ、高収益に結びついていたのです。

ソニーは過去最高益を見込む(写真は社長の平井一夫氏)。(時事通信フォト=写真)

ところが、今世紀に入り、日本の家電産業は失速します。背景にあるのは、デジタル化による競争環境の変化です。アナログ時代は、部品と部品を組み合わせる際、そこに匠の技が必要でした。しかし、デジタルの世界では、基本性能が大幅に向上し、技術的進歩の差がわかりにくくなったうえ、組み合わせが容易になった結果、参入障壁が低くなり、誰もが簡単に高品質な製品を作れるようになりました。技術だけでは勝ち残れない状況が生まれたのです。

もう1つは、価値観の多様化です。以前は、技術開発に投資し、技術が伸長した分だけ製品の機能が向上し、その分価格が上がり、収益も上がるという単純な構造でした。しかし、技術伸長のカーブは必ずどこかで限界に近づき、緩やかになります。その段階にくると、消費者は必ずしも技術の差だけで商品を買わなくなり、機能・性能以外の価値が重要になります。

技術以外の価値を求めていく方向にシフト

そんな中で、技術以外のところで差をつけるメーカーが現れてきました。象徴的な存在がアップルです。iPhoneは、従来の携帯電話に比べると単純な仕組みで、メカニカルな部分は折りたたみ式携帯などに比べればシンプルな作りです。バッテリー性能や音楽を聴く際の音質も最高というわけではありません。しかし、使い勝手やデザインのよさなど、感性に訴える新しい価値を生み出すことで成功しました。

もう1つの例が、米パソコンメーカーのデルです。自前の技術や工場は持っていませんが、日本のメーカーが軒並み失敗しているパソコン事業で今も収益を上げています。同社の場合、独自のサプライチェーンを戦略の差異化ポイントとして他社よりも効率的な事業で競争優位を築いています。このように、アップルにせよデルにせよ、デジタル化によって技術だけでは差がつかなくなった中で、技術以外の価値を求めていく方向にシフトしていったわけです。

ここでポイントとなるのが「効果」と「効率」です。アップルが追求したのは効果であり、デルが追求したのは効率です。この2つの方向性は根本的に両立せず、トレードオフの関係にあります。経営戦略を考えるうえでは、両社のように、自分たちが今、追求すべきなのは効果なのか、効率なのかをしっかりと見定める必要があります。