生活のあらゆる面で活躍する段ボール包装
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生活のあらゆる面で活躍する段ボール包装

「これまで請負や派遣社員を使ってきたのはやはりコストを抑えるためです。1000人強の派遣社員をこの際どうするのかという議論のなかで、今後も派遣社員として使い続けていくのであれば従来と何も変わらない。会社にとって本当に必要な人間であれば、レンゴーで働く人間は全員正社員にしようと決めたのです。ただし、本社採用の転勤があるナショナルスタッフと各地の工場で働く地域限定のローカルスタッフの2つに区分するやり方で1回やってみようとスタートしたのです」(大坪)

当然コスト増になる。派遣社員1000人は2009年4月から正式にレンゴー社員として採用されたが、正社員化に伴う人件費は年間4億~5億円アップしたという。

ところが「結果としては大成功」(大坪)を収めた。因果関係は証明できないものの製品のロス率が目に見えて低下したというのである。板紙を段ボールに加工する過程で、例えば一トンの板紙から完成する段ボールのロス率が10%とすれば900キログラムになる。ロス率を1%低下できれば10キログラムの製品が生まれる。レンゴーグループ全体では年間20数万トンの段ボールを生産しており、ロス率の改善は収益にも大きく影響する。

「ロス率の改善というのは価格設定に、まして業績には非常に反映されるのです。2月に派遣社員の正社員化を発表して以降の3~6月のロス率が目に見えて改善している。想定外というより想定以上のいい結果が出ています」(大坪)。

大坪はロス率改善の理由をこう分析する。

「物の製造」がおよそ3割を占める
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「物の製造」がおよそ3割を占める

「何より現場の人間同士の意思の疎通がよくなったことです。それと当社では6Sと称して整理・整頓・清潔・清掃・躾・作法を徹底してやらせていますが、こちらも目に見えてよくなっている。やはり日々のちょっとしたケアがロス率に関わっているのです」

ロス率の改善は4~6月の決算(連結)にも大きく貢献した。売上高は6%減の1076億円だが、営業利益は前年同期比81%増の80億円、純利益は2倍の42億円に達した。「近年、業績が大変厳しい製紙業界にあって、儲かりすぎると目立つので困る。(正社員化に伴う)人件費アップ分は十分に出るぐらいの効果を生んだ」(大坪)のである。

正社員化と生産性を結びつける考えは何も大坪の独創ではない。戦後の製造業は「雇用の維持」と「公正な配分」を謳う「生産性三原則」を遵守することで発展してきた。自ら関西生産性本部会長を務める大坪はその忠実な実践者でもある。

実際に正社員化したことで従業員の働き方にどういう影響を与えたのだろうか。それを知りたくて同社の千葉県佐倉市にある千葉工場を訪ねた。同工場の従業員は事務系を含めて約100人。うち約40人の元派遣社員が働いている。紹介した大坊もその一人である。

千葉県成田市に住む大坊は妻子を抱え、以前は市内のホテルに勤務していた。退職後、求人広告を見て応募し、05年11月に派遣会社のレンゴーサービスに入社した。工場内ではレンゴーに対して“レンサ”と呼ばれていた。作業着は同じ色でも、服に刻まれた社章はレンゴーが三角形の中に逆三角形をあしらい、レンサは逆三角形の部分にSの文字が入るなど明確に区別されていた。

最初は印刷機の給紙係を担当した。入社直後の給与は約20万円。レンゴーの社員の多くは検品など工程管理の責任者である「機長」だった。工場の様子について大坊は「レンゴーの人は機長で僕らは給紙係ですし、上下関係じゃないが近寄りがたい雰囲気があり、朝のミーティングのときも双方分かれてこそこそ、喋っていた」と語る。

(文中敬称略)

(小原孝博、熊谷武二=撮影)