過酷な状況に置かれても、人は美しく生きられる

『潜水服は蝶の夢を見る』は映画化されて話題になった作品です。僕も先に出合ったのは映画のほう。これは実話で、ELLE誌の編集長だった男性が、脳出血で倒れて、意識はあるのに左目しか動かなくなってしまった状態で書いた自伝なんです。

体が動かない彼は、言語聴覚士の方とルールを作り、まばたきで言葉を伝える方法を覚えるんです。それが途方もない作業でね。20万回以上のまばたきだけでこの本を書いたという事実にまず驚きました。彼は体は動かないけれど、空想によって夢の中へ旅をして、それをホントに美しい言葉で紡ぐんですよね。

(上)『潜水服は蝶の夢を見る』ジャン=ドミニック・ボービー(講談社)/古書にて入手可能(下)いくつになっても美しいたたずまいの稲垣さん。本に対する熱い思いと、現在の気持ちを率直に語ってくれました。

彼自身も一筋縄ではいかない人間でね。納得がいかないことがあれば医者への皮肉も平気で言うし(笑)、はすにかまえた、ちょっと偏屈な自分も表に出しつつ、ユーモアも忘れない。その生きざまから彼の信念みたいなものが伝わってきたし、過酷な状況に置かれて自由を奪われても、人はここまで豊かに表現し、夢を見ながらプライドを持って、美しく生きていくことができるんだなと思って衝撃を受けました。

同時に、自分は健康で自由なんだから、思い切り空へ羽ばたくように夢を紡いで、彼みたいな生き方ができればいいなって、映画を見たとき、心の底から震えるような感情が湧き上がってきて。その感動を忘れたくなくて、この本を手に取りました。原作は淡々と書かれてますが、映画は、回想シーンや家族とのエピソードが美しい映像とともに描かれていて、ドラマチックなエンターテインメントになっています。

※本稿はインタビュー記事のダイジェスト版です。続きは「プレジデント ウーマン」(2018年1月号)にてご覧ください。