これからのビストロ経営戦略

――人材を育てるという面では、思い通りにいかなかった両角さん。利益は出ているものの、売り上げは伸び悩んでいるという。これからの戦略をどのように考えているのでしょうか。

店の売り上げは「マクロ経済」の影響が大きいんです。というのも、(店のある)西麻布という街自体の元気がなくなり、高齢化が進んでいる。ときどき、スタッフにケアさせて、街を歩き回るんですよ。この辺りをぐるぐると。すると、うちが2組しかいないときは、ほかも1組か2組。うちがすごく入ったときは、ほかの店も客が入っている。

結局、世の中の動きって、リンクしているんです。開店当初は「景気はどうであれ、自分自身が仕掛けていけば勝てる」と考えていましたが、最近はあきらめもするようになりました。世の中ダメなときはダメだし、よいときはよい。もちろん、いつも何か探していますし、できることを考えているのですが、あまりジタバタしてもしかたないことを学びましたね。

という中で、今まさに次の一手をどう打とうか、真剣に必死に考えているところです。この店は過渡期にあると思っています。順調と言われていますが、僕にすればそんなことはない。ミシュランガイドに載ったからといって、お客さまが押し寄せるわけでもない。シェフも、フロアも最少人員でやっていて、コストが抑えられているから何とかなっていても、このままではジリ貧になってしまう。

まずやろうと考えているのは、開業当時からのお客さまに店の良いところ、悪いところをヒヤリングさせてもらって、改善していくことです。お客さまはすぐに飽きるので、トレンドを追うやり方もあるのですが、それは僕がやりたいことではない。今の店のスタイルの延長線上、ベースラインを保ちながらどこまでチャレンジできるかを考えていきます。

“脱サラ”で飲食業界に挑む人たちへ

――両角さんのように未経験から飲食業界で開業する人もいますが、成功できるのはほんの一握り。日本政策金融公庫総合研究所「新規開業パネル調査」で見ると、「飲食業、宿泊業」の廃業率(2011年末に存続していた企業のうち、2015年末までに廃業した企業の割合)は、全平均10.2%に対して、18.9%と全業種でもっとも高くなっています(最低は不動産業の4.3%)。厳しい業界とわかっていながら挑む人たちに、両角さんからメッセージをもらいました。

経営に向いている人と向いていない人がいると思います。料理を作っているのが楽しいとか、サービスをしているのが楽しいという人は、スタッフとしてそれだけをやっていればいい。そのほうが幸せなはずです。

アドバイスできることがあるとすれば、数字をよく見ることです。勘や経験ではなく、数字にもとづくマーケティングを行うこと。僕は、いつも数字を見ながら考えています。客単価の推移、売り上げの前年度比は、いつでも見られるようにしています。自分なりにできるだけ数字を見る習慣をつけたほうがいいと思います。

あとは、お客さまへの情報発信をたえず行うことですね。ビストロなら、楽しくて、美味しい店なんだと思ってもらえるように。