私が見てきた中で最高の政治家の一人

2017年6月16日、ドイツのヘルムート・コール元首相が死去した。87歳だった。

戦後最長の16年(1982~98年)にわたってドイツ連邦共和国の首相を務めて、東西ドイツの再統一を成し遂げ、EU創設を定めたマーストリヒト条約の締結や欧州共通通貨ユーロの導入など欧州統合にも尽力。その功績から過去3人しかいない「欧州名誉市民」の称号をEUから贈られている。

7月1日にはフランス東部のストラスブールにある欧州議会でコール氏の追悼式が執り行われた。EU主催の「欧州葬」はこれが初めてだ。EUのトゥスク大統領、ドイツのメルケル首相をはじめ現旧の各国首脳や親交のあった政治家が多数参列した。

コール元首相の葬儀で弔辞を述べるメルケル首相(欧州議会、7月1日)。(AFLO=写真)

「ドイツ、欧州、世界の歴史に目に見える足跡を残した傑出した人物」と旧ソ連のゴルバチョフ元大統領が弔意を表していたが、同感だ。私が見てきた中でも最高の政治家の一人だと思う。身長193センチ、体重130キロという巨漢のリーダーには「大人の風格」があった。

何が素晴らしいかといえば、ビジョンを掲げ、それに一致した政策をぶれることなく積み上げ、やり通し、結果を出すというビジョンドリブンな政治姿勢である。

安倍晋三首相と比較すると……

日本の安倍晋三首相と比べるとよくわかる。第1次政権スタート時から安倍首相が掲げていたビジョンは「戦後レジームからの脱却」であり、戦後体制、戦後秩序、戦後政治の見直しだった。

しかしアメリカに一喝されるやすぐに尻尾を振って、アメリカべったりという戦後政治の上塗りに方向転換。トランプ大統領にも我先にと謁見して「アメリカに民主主義を教えてもらった」などと持ち上げていた。こんなリーダーが歴代最長の政権(現在は戦後第3位)になるかもしれないのだから、情けない。