「幸福だから笑うのではない。笑うから幸福なのだ」。こうした考え方が、科学的に証明されつつある。口角を上げて笑顔をつくるだけで、脳内物質が分泌されて幸福感が得られる。その効能は「チョコバー2000個分」にもなり、「寿命が7歳延びる」という研究結果もあるという。笑顔の効用を仕事に生かす方法を考えてみよう。

表情は人間が生来持つ感情表現

『幸福論』の著者、フランスの哲学者アランはこんな言葉を残している。「幸福だから笑うのではない。笑うから幸福なのだ」

笑顔は、あらゆる活動の原動力になる。単純に心持ちだけの話ではなく、近年は科学的にさまざまなデータが出ていることをご存じの方も多いだろう。

例えばこんな研究結果がある。トレーディングカードなどの写真を調べ、笑顔が少ないプロ野球選手の平均寿命は72.9歳だったのに対して、笑みを浮かべていたプロ野球選手の平均寿命は約80歳。ウェイン大学が行ったこの一連の研究では、笑顔が人の健康や生活をよくする力を持っていることが示されたという。

「種の起源」のダーウィンは、140年前にこうした表情フィードバックの仮説について触れていた。それは、「笑顔というのは気分が良いときに出るだけではなく、ほほ笑むという行動そのものが、気分を向上させる効果を持つ」というものだ。

その当時、表情は文化に依存した学習の産物だとされていた。ところが、1930年代にパプアニューギニアで先住民が発見されたときのこと――感情と表情を研究する心理学者ポール・エクマンが、表情とは文化など後天的なものではなく、人間が生来持つ感情の表現であることを発見した。それは、孤立して石器時代の文化に暮らしている部族が、他の近代文化の生活をする人たちの怒り、悲しみ、幸福感といった表情を読み取れたことによる。

例えば、「怖い」と感じたときと、「イヤだな」と思ったときでは違う表情をするだろう。そうした違いは、生来のものだというわけだ。

トロント大学の心理学者サスキンド博士らの、「恐怖」や「嫌悪」など、負の感情が引き起こす筋肉の働きの研究によると、恐怖の表情では目を大きく開け、眼球の動きが速くなり、遠くの物にまで目が届くようにする傾向がある。一方で嫌悪は、視野を狭め、鼻腔(びくう)が閉じて、情報を遮断する方向に表情が動く。同じ負の感情でも、まったく逆に近い動きをするのだ。

当然ながら、恐怖のときにはアンテナを張り巡らして自分を守るほうがいいし、嫌悪のときは情報を遮断して、不快感を取り除きたい。つまり、その表情を作ることで恐怖や嫌悪感に対処する準備をしているのであり、人間にとって合理的な筋肉の運動だというわけだ。

では、笑顔はどうだろう?