平均寿命は着実に伸びる中、将来への備えはますます重要に──。わかってはいるが、忙しさにかまけ対策を後回しにしていないだろうか。40代、50代は、今、何をしておくべきなのか。ファイナンシャル・プランナーの橋本秋人氏に聞いた。

キャッシュフロー表も90歳までつくる時代

──今、40代、50代の人のお金の悩みにはどんなものが多いでしょうか。

【橋本】やはり引退後についての相談が多くなります。ちょうど自身の親御さんがセカンドライフの真っ只中という人も多く、自分の将来の姿を重ねて見ておられます。ただ、かつてとは時代が違う。親世代と同じセカンドライフが送れるのだろうか、と漠然とした不安を感じている人が多いですね。また最近は、結婚年齢が遅くなる傾向もあり、老後資金を考えなければならない時期に子どもの教育費が重なってくることも少なくありません。そのような場合には、余計に不安が大きくなっています。

──将来に向けて、対策を取っている人は多いですか。

【橋本】これから、という人がとても多いです。理由の一つとして、不安はあっても、何が不安なのか、具体的につかめていないということがあります。例えば、毎年「ねんきん定期便」が送られてきていても、自分の年金額を把握している人は案外少ない。また月々の家計の収支についても同様で、あまり意識されていない。具体的な数字が頭に入っていないため、不安が漠然としたレベルでとどまってしまうのです。

出典:厚生労働省「平成28年簡易生命表」

──平均寿命が伸びる中、将来の備えについては自助努力がますます重要になってきますね。

【橋本】特定年齢生存率というものをご存じでしょうか。言葉のとおり、特定の年齢まで生存する人の割合を示したもので、厚生労働省が発表しています(図参照)。それによれば、平成28年の段階で、男性は4人に1人、女性では半数もの人が90歳以上生きることになります。「人生100年時代」といわれても、まだ40代、50代ではピンとこないかもしれませんが、すでに90歳、100歳まで生きるのが当たり前の時代になっているのです。

65歳で定年を迎えたとして、それから30年近く充実した時間を過ごすにあたって、家族や健康、生きがいも大事ですが、お金も抜きには考えられません。私が相談者の方のキャッシュフロー表をつくる際も、最低でも90歳までは考えるようにしています。

──やはり、公的年金だけで生活費を賄うのは難しいでしょうか。

【橋本】現在、公的年金の受給額は一世帯当たり平均で月額20万円ほど。一方で、生活費は厚生労働省のデータで月額およそ28万円(高齢者無職世帯)になっています。とすると、毎月約8万円、年間約100万円の不足が生じます。その状態が65歳から90歳まで25年間続くとすれば、単純計算で2500万円必要ですから、それを賄う金融資産や収入があるかが問題になってきます。

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橋本秋人(はしもと・あきと)
FPオフィス ノーサイド 代表
ファイナンシャル・プランナー(CFP(R)/1級FP技能士)
不動産コンサルタント
1961年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。30年以上相続支援や不動産活用の実務に携わった後に独立。ライフプラン、住宅取得、不動産活用、相続などについてのアドバイスを行う。宅地建物取引士 、住宅ローンアドバイザー 、終活アドバイザーなどの資格も持つ。

──現役時代に高所得だった人も油断ができないという話を聞きます。

【橋本】そのとおりですね。高所得の人は、それなりにお金を使う生活に慣れています。ところが現役時代に高所得であっても、公的年金の額はそれほど増えません。現役時代に支払う厚生年金保険料は報酬額に応じて変わりますが、給与の月額部分については60万5000円以上は同じ等級として扱われます。つまり、「年収が平均の3倍、4倍だからといって、もらえる年金額も3倍、4倍になる」というわけではないのです。

──そうした中では、資産を運用するという視点が重要になってきます。

【橋本】現在日本は2%の物価上昇を目指していますが、インフレになれば低金利の預貯金の価値は実質的に目減りします。今はiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAを使った運用もできますが、ある程度定期的に収入が入ってくる仕組みをつくっておくことも選択肢の一つです。預貯金を切り崩しながら、90歳、100歳まで生きていくというのはなかなか大変。長く働くというのも一つの選択でしょう。資産運用によって、また自ら働くことによって、安定収入を得られれば年金受給開始を遅らせたり、いろいろな手が打てます。年金受給開始を1カ月繰り下げるごとに年金は0.7%増えるので、仮に受給開始年齢を65歳から70歳に5年繰り下げれば、受給額は42%も増えます。決して小さな数字ではありません。

──資産運用をする際に付き合う事業者などはどう選べばいいでしょうか。

【橋本】相談をしたときに、担当者が自分の投資の目的を理解してくれているか、それに見合った提案をしてくれているか。この辺りが、見極めの一つのポイントだと思います。本来、目的のない資産運用というのはありませんから。また不動産投資などの場合は、基本的なことですが事業者の信頼性も重要になります。賃貸経営は、長期にわたる〝事業〟です。確かな理念と実績を持ち、長く付き合えるパートナーを選ぶ必要があります。

──最後に、セカンドライフに備える現役世代にメッセージをお願いします。

【橋本】お金についていえば、貯めたり、増やしたりするのと同時に、いかに使うかも大事です。お金の使い方には、「消費」「浪費」「投資」の三つがあります。消費は普段の生活で使うお金。浪費は無駄遣い。大切なのは、やはり投資でしょう。これは広い意味で、将来の自分や家族に返ってくるお金の使い方と解釈できます。運用もそうですし、暮らしを豊かにするための支出も含まれます。充実したセカンドライフを過ごすためのお金の使い方を一方でよく考えてほしいと思います。そのためには、相応のリテラシーも必要になってくる。最初にお話ししたとおり、不安を漠然と抱えるのでなく、まずは具体的な将来イメージを持つことが第一歩ではないでしょうか。