現役時代、自閉症の息子と奥さんの看病をしながら、仕事に邁進した佐々木常夫さんに強い心を持つための秘訣を聞いた。

何度叱られても心が折れない人の正体

会社勤めをしていると、精神的に辛い状況に置かれることは少なくないと思います。特に経験が浅いうちは未熟ですから、上司からたび重なるダメ出しや叱責を受けて、心が折れそうになることもあるでしょう。そこで萎縮してしまわないために、ぜひ前提として知っておいてほしいことがあります。それは、「私たちは何のために仕事をするのか」ということです。

仕事を通じて成長することと、自分のチームや顧客、地域社会に貢献すること──。人間は、この2つに喜びを感じ、モチベーションが高まります。もちろん好きな女性に格好いい姿を見せたいとか、仕事をする理由は人それぞれで構いません。

要は、私たちが仕事をする意義は、自分の幸せをつかむことにあると納得できればいい。そのように働く意義を自分ゴト化して捉えることができれば、困難に直面してもエネルギーが湧いてくるものです。図太い人でも、小心者であっても心を支える土台は変わらないのです。

一方、この大前提がボヤけていると心が折れやすくなります。本来であれば、社会に出る前に家庭や学校で働く意義を教えていればいいのですが、そのケースは稀。だから、今の新入社員や若手社員は叱られると萎縮し、すぐにダメになってしまう。彼らには、仕事を教える前に、まずは働く意義から教える必要があるのです。

そうすれば、ピンチがチャンスであるということにも気づけるはずです。

私もかつて東レで営業を担当していた頃に、大きな失敗をしたことがあります。誤って強度の低い糸を出荷してしまい、そのことに気づいたのは、取引先がその糸で製品をつくってしまった後でした。聞いたその日に私は取引先のある熊本まで飛んでいき、正しい糸を無償で提供することと、誤った糸でつくられた製品をすべて買い上げることを取引先の社長に伝えました。すると、その対応の早さを社長に気に入ってもらえて、取引量を拡大することができました。

相手からの評価が悪くなったら、評価されるように改める。単純化して考えれば、ただそれだけの話であり、萎縮してやらないことは勿体ないと思えます。