何のために「優れたクルマ」を作るのか

――コモンアーキテクチャーのメリットの中で、リソース効率がいいというのは藤原専務のおっしゃる「アフォーダブル」という面で重要なキーワードですし、非常に分かりやすいですね。ただその先、コモンアーキテクチャーによって「いいクルマを作る」ことで、マツダは社会に対してどんな価値を提供したいと考えているのでしょうか?

【藤原】まずは日本の自動車会社の中で、優れた――それは乗り味や機能やデザインなどが優れたクルマを、小さいクルマから上のクルマまで格差のない状況にしたいんです。例えばデミオに乗っても「小さいクルマだから」と卑下することなく、お客さまが満足して「良いクルマに乗っている」と思える状態を作ることで、(ユーザーの)クルマを見る目を上げたい。品質やクルマの善しあしを感じるレベルを上げれば、それが結局クルマ文化を作るベースになると思うんですね。ヨーロッパのクルマと日本のクルマの最大の違いは何か。それはやっぱり買っている人たちの違いがあると思うんです。これはユーザーを批判しているのではなくて、その原因は、われわれが今まで日本のお客さまに、目を養うだけの製品を提供できなかったからだと思っています。だから世界レベルのものをアフォーダブルな価格で提供することで、(ユーザーにクルマを)見る目を養ってもらいたいんです。それがずっと続けば、多分日本のお客さまのクルマを見る目が上がる。そうすればきっと他のメーカーもレベルを上げなくてはならなくなる。そうすると日欧の差が減っていく。それが日本のクルマ文化が成熟していくための第一歩だと思っています。

――日本の自動車を変えていきたいということですね?

【藤原】そうなれればなぁと思っています。小さな会社がそれをやるためには、コモンアーキテクチャーを使ってデミオもCX-9もアテンザも全部一斉にレベルを上げて行くということをしなくちゃいけないんです。私は「何が一番お薦めですか?」と言われたら、必ず「デミオのガソリンです。一番安いヤツです」と答えています。

新型デミオ(2016年モデル)
――「高いクルマは良いけど安いクルマは……」ではダメだということですね。デミオのガソリンモデルは確かに良いです。アクセラのガソリンモデルとどちらかと言われるとちょっと迷うところですが……。

【藤原】ああ。でもIPM後のクルマで言うと、私はデミオのガソリンだと思うんです。私は今どこへ行っても「デミオのガソリンが一番良いですよ」とお勧めしています。「言っちゃいけないですね、私が」とか言いながら(笑)。一番安いクルマに乗っていただいても、やっぱりクルマの味(あじ)だとか、「クルマってこういうもんだ」ということを分かっていただけるようになれば、(良いクルマを体験できる人の数が増えて)多分(見る目が)変わっていくと思います。

他社のクルマを目標にするな

――先ほど世界レベルという話の中で欧州車の話が出ましたが、開発に際しては欧州車を指標にしているんですか?

【藤原】目標を作る時には指標にしていません。自分たちの考えで目標を作れと言っています。ただし、作った後に自分たちがどこにいるかということを知るために、他車の評価をしても良いと。

――負けていないかどうかを見るため、ですね?

【藤原】自分たちがやりたいことが負けていないかどうか、今のレベルがどうかってことなら、やっても良い。ただ目標はそれで決めてはいかんです。「ヨーロッパの何とかのクルマに対して、この性能で5%勝ちます」みたいな、そんなことを書類で上げて来たら破り捨て……いや、厳しく指導します。

――そういうベンチマーク的な開発手法は、今、やっている会社がいっぱいありますね。

【藤原】昔は、われわれもそうでした。フォード時代はそうやって目標を決めさせられました。十数社の競合車のデータを集めて、「この性能についてはこれが平均だから、それ以下でなければ良い」とか、「この性能はアマング・ザ・リーダーで良い」(注:トップグループに入れば良い)とか言われて、空しい仕事をいっぱいしました。それはもう、全部止めさせました。