“デキる社会人”古田敦也の思考法

「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の解説席から試合を見ていて、ピリピリするような緊張感の中でプレーできる選手たちが、心底うらやましかったですね」

そう語る古田敦也さんの表情は、“傍観者”のそれではない。現役を引退して10年。今年52歳を迎える古田さんの目に、「侍ジャパン」のメンバーたちは、今も“ライバル”として映っていた。

野球解説者、スポーツキャスターとしての活動と並んで、現在、仕事の中心を占めるのが講演活動だ。2年間の社会人野球生活を経てヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)に入団するまでの道のりを振り返りながら、「目標を明確にし、その目標に向かって突き進んでいくことの大切さ」を語り、チームの勝利のために考えながら行動してきた経験をもとに「結果を出すための思考法」について話す。とりわけ、企業の管理職を対象に「チームマネジメント」や「リーダーシップ」をテーマとした講演依頼が多い。「ときには、社長さんばかりの前で話すときもある」という。“名将”といわれた野村克也監督のもとでプレーし、自身もプレイングマネージャー(選手兼監督)として活躍した古田さんならではといえるだろう。

「高校時代は平凡だった選手が、大学に入って日本代表に選出されたことをきっかけに、本気でプロを目指し始めた。社会人野球時代にはサラリーマンとして会社勤めも経験し、ソウルオリンピックにも出場しました。そしてプロ入りの際には『メガネをかけたキャッチャーは大成しない』と言われながら、奮起してレギュラーの座をつかみ取った……。そんな、プロ野球選手としては“特異な”経験を伝えることが、誰かの役に立つのならうれしい。そんな気持ちで話をさせてもらっています」

たとえば、「準備」についての話は、ビジネスにも役立つ。大学・社会人を経ての入団時、25歳になろうとしていた古田さんは、1年目からレギュラーをつかむために、野村監督が求めるキャッチャー像に自分をフィットさせることを決める。野村監督の著書を読み込み、トレーニングは野村監督の理想に近づくための道と位置付けた。これは、上司・部下の関係にも当てはまる。

「プレッシャーがかかる場面で、何をすべきか」の話も、野球とビジネスの両方に関係するテーマだ。プロ入り当初、古田さん自身もバッターボックスで過度な緊張に襲われることがあったというが、やがて一つの答えにたどりつく。それは、「結果を考えないこと」と「その場面に集中すること」。相手ピッチャーに関するデータを頭に展開し、どういう球がくるか、どう打つべきかだけに意識して集中したところ、ここぞという場面で打てるようになったという。これは、大きな案件でのしかかるプレッシャーと戦う方法につながる。

常に考える姿勢を貫き、プレッシャーや緊張をコントロールし、超一流選手に上りつめた古田さんは、異分野のプロフェッショナルたちと交わる機会も少なくない。

「テレビ番組やイベントでは、スポーツ選手だけでなく、さまざまな分野の人たちとのコラボレーションも多いんです。例えば、脳科学やロボット工学の研究者の方と“未来”について語るというような仕事もあります。好奇心は旺盛なので、未知の世界にふれるチャンスは刺激的ですね」

自称「あきらめの悪い男」の夢をかなえる方法

古田敦也(ふるた・あつや)
野球解説者、スポーツキャスター。1965年、兵庫県生まれ。89年、トヨタ自動車からドラフト2位でヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)に入団。2007年の引退まで球界を代表する捕手として活躍。リーグ優勝5回、日本シリーズ優勝4回。個人としても、MVP2回、首位打者2回、ベストナイン9回。通算盗塁阻止率、オールスター連続出場など多くの日本記録を持つ。学生・社会人を経た選手として初めて、通算2000本安打を達成。2015年、野球殿堂入り。

古田さんの好奇心は、アクティビティの面でも尽きることがない。現役引退直後の2009年に「東京マラソン」、翌年には「ホノルルトライアスロン」を完走。そして2011年には、「アイアンマン・西オーストラリア大会」にチャレンジした。アイアンマンレースとは、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmを1日でこなすトライアスロンの一形態。まさに“鉄人”と呼ぶにふさわしい過酷なレースだ。さらに昨年は、アルペンスキーの大回転競技にも出場した。

挑戦を続ける理由について、「“元気なジジィ”でいたいんです」と笑う。

「少年野球の指導に行くこともあるのですが、指導にやってきた人間が、腹の突き出たオッサンだったら、指導を受けるほうは失望するでしょう。指導者に一番必要なのは説得力。もちろん“現役時代そのまま”というわけにはいきませんが、小学生に“さすがプロは違うな”と思わせることができるカラダを維持していたいですね」

動けるカラダを維持するため、週に2~3回のジム通いは欠かさない。トレーニングを継続させるコツは「週の初めに、まずトレーニングの予定を入れてしまうこと」だという。

「午前に仕事のスケジュールが入っていない日は、午前中をトレーニング時間と決めてしまう。そうすると、前夜は『明日は朝からトレーニングだから早めにベッドに入ろう』と考えるようになる。自然と“早寝早起き”の習慣が身につきました」

古田さんが試行錯誤の末、行き着いたというスケジュール・マネジメントは、ビジネスパーソンにも大いに参考になる。

自らを“あきらめの悪い男”と評する古田さん。自分の能力にリミットを設けない姿勢が、今の自分をつくってきたと感じている。

「『これは自分にはちょっとムリかな?』と思えるくらいの目標を設定するほうが、チャレンジのしがいがある。そして本気で努力すれば、たいていのことはクリアできると信じています。何より重要なのは“乗り越えよう”と思う気持ち。その点、今の若い人たちを見ていると、ヘンに物わかりがいいというか、あきらめの早い人が多いような気がする。もったいないですよ。でも、ライバルにとってはラッキーでしょうね。次々に競争相手が減っていくんですから」

結果を出し続けているビジネスパーソンなら、うなずける話ではないだろうか。

野球の神様・ベーブ・ルースの名言に「あきらめない者に勝つのは難しい」というものがある。また、GE(ゼネラル・エレクトリック)の創業者で、発明家のトーマス・エジソンはこう言った。

「われわれの最大の弱点は、あきらめること。成功への確実な道は、常にもう一度試してみることだ」

あきらめが悪いことは、歴史が証明している成功の絶対法則なのだろう。

クオリティの高い仕事を引き出す小さなコツ

現役を退いて10年、今も高い目標を持ち、仕事にもカラダづくりにもスマートかつストイックに向き合う古田さん。尽きることのない好奇心、旺盛なチャレンジ精神にあふれる日々に欠かせないのが、自分を緊張から解き放つ瞬間。手軽にリフレッシュするために、「紅茶を楽しむことが多い」と古田さんは言う。

「疲れてきたなと思ったら、紅茶を選びます。香りが鼻を抜けるときに、脳がリラックスする気がするんですよ」

紅茶好きの古田さんの自宅には、さまざまなリーフティーがあるらしい。お気に入りの紅茶で一息つく――。良質なリフレッシュタイムは、ビジネスパーソンにも大切だろう。

実際、紅茶を飲んで気分が変わったと感じたことがある人は少なくないだろう。紅茶が気分転換だけでなく、ワークスタイルやライフスタイルにも与える影響を調べた興味深いアンケート結果がある。

2017年3月に紅茶と暮らし研究所が20代から50代までの男女ビジネスパーソン1000人に実施した「仕事と紅茶に関する意識調査」だ。これによると、まず紅茶好きな人に、「仕事をする上で紅茶はどういう存在か」聞いたところ、「気分転換したい時に飲むもの」が9割いることがわかった。そして、紅茶好きな人には仕事の品質にこだわりを持ち、効率的に仕事をする、“スマートなビジネスパーソン”が多くいることも判明したようだ。

キリン 午後の紅茶 おいしい無糖

古田さんのように、アクティブでチャレンジングな日々を過ごす中でもリラックスする瞬間をうまく取り入ることは、ビジネスパーソンにも共通するクオリティの高い仕事を続けていくコツなのだろう。

忙しさやストレスで心が疲れたり、集中が途切れてきたら、しばしデスクを離れてティーブレイクを取ってみるといい。紅茶の上質で芳醇な香りが、疲れた気持ちを整え、心身をリフレッシュさせてくれる。たった1杯の紅茶が、仕事の効率を高めてくれるかもしれない。

(衣装=イザイア ナポリ 東京ミッドタウン)