本格的なIoT時代が幕を開け、各所で新たなビジネスの芽が出始めている。IoTビジネスを取り巻く環境は、今どのように変化しているのか。長年にわたって企業のIoTビジネスを支えてきたKDDI株式会社のビジネスIoT企画部長 原田圭悟氏が語る。

歴史を知るKDDIから見た、IoTの今

KDDI株式会社 ビジネスIoT企画部長
原田圭悟

――現在、KDDIの法人向けIoT回線の契約数はどのような状況ですか?

おかげさまで、たくさんのお客さまに支えられながら、順調に拡大しています。当社では2001年から、IoTの前身であるM2M回線の提供を開始していますが、ここ最近は電力会社によるスマートメーター(通信機能を持った電力量計)の導入が年に100万台のペースで進んでいることが主な要因です。

IoT市場全体の成長率は年平均23.6%という高い水準で推移すると予測されており、本格的なモノのネットワーク社会へ向けて、今後も大きく伸びていくと考えています。

――企業のIoTへの関心も高まっていると感じますか?

そうですね。ただ現状としては、「IoTをやってみたいけれど、本当にビジネスに活かせるのか、わからない」といった声や、「IoTで何をすべきなのか、いいアイデアはないか」といったご相談がほとんどですね。

――そうしたお客さまへは、どのような対応をされていますか?

当社ではデータ分析を得意とするメンバーと業務を提案するメンバーの二層構造でチーム体制を築いていますので、お客さまのニーズに合わせて、より投資対効果の高い形でIoTビジネスを支援するよう心がけています。

――投資対効果が悪くなるのは、どのようなケースなのでしょうか。

正直なところ、コスト削減や業務効率化の観点でIoTを導入される場合は、なかなか難しいと感じています。もちろん、それでもうまくいくケースはあるのですが、コストだけに着目すると、小さな変化で終わってしまいがちです。そうではなく、長期的な視点でお客さまのビジネスを拡大する方向で考えた方が、IoTの真価を実感していただけると思いますので、コスト削減を望まれているお客さまに対しても、新規ビジネスのアイデアをアドオンでご提案しています。

――M2Mの時代から、長年ビジネスを間近で支援されてきたからこそなせる技ですね。

そうですね。それぞれの業界に合ったIoTの活用法があると思いますので、我々がこの15年で培った国内外の数ある事例や知見を提示しつつ、逆にお客さまのビジネスの実情を教えていただきながら、ともにビジネスを創っていければと考えています。

ネットワークの見えない壁を消した新技術

――ネットワークの活用といえば、車が先進的ですよね。

はい。“コネクテッドカー”という言葉を耳にされたことがある方も多いかと思いますが、自動車にインターネット通信機能を付加して、車両の状態や周囲の道路状況などの様々なデータをセンサーから取得することで、新たな価値を生み出すことが期待されているものです。(※1)

しかし、グローバルな共通サービスとして展開していくためには、国や地域で異なる通信回線を統合管理し、高品質な通信を確保する必要があります。
 
例えば、テレビを世界中に輸出するシーンをイメージしてください。日本でテレビにSIMを入れたまま輸出すると、途中で輸出先の国専用のSIMに差し替えなければならず、さらに各国で現地キャリアと契約を結ばなければなりません。また日本のSIMを国際ローミングで使うと、高いコストがかかってしまいます。

――そこで御社がトヨタと共同開発されたのが、グローバル通信プラットフォームというわけですね。

そうです。新方式のeSIMを活用し、リモートでSIMを書き換えることで、1枚のSIMで全世界に対応できるメリットがあるほか、あらかじめKDDIが交渉した高品質・低コストの現地キャリアのネットワークをご利用いただけますので、お客さまによる個別契約の必要もありません。

――車以外の製品にも応用できると。

はい。ネットワークを通じて、製品が輸送される道程を管理したり、販売後にどこでどのような使われ方をしているかも把握できるようになりますので、アフターサービスや付随サービスなどを提供することで、新たな収益源を生み出すことも可能です。

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「グローバル通信プラットフォーム」の概念図。国・地域ごとに異なる通信事業者への接続と通信網の稼働監視を統合する)

いよいよ始まるIoT時代に、KDDIはどう挑むのか

――KDDIではお客さまのIoTビジネスを包括的に支援されるということですが、御社自身が新たなビジネスをスタートされる予定はないのですか?

いくつか準備しているものもあります。従来はネットワークやスマートフォンなど、商品を売っておしまいという商売をやってきましたが、これからのIoT時代に、これではいけないと反省しているところです。我々としても、お客さまの先にいる一般のお客さまに提供する“新たな顧客体験価値”を追求していかなければ、イノベーション競争で勝てなくなると考えています。

――KDDIが保有されているデータを使いたいというニーズもありそうですが。

そうですね。位置情報ビッグデータ(KDDIがお客さまから同意の上取得し、誰の情報であるかわからない形式に加工した位置情報データ)や、基地局で収集される気象情報、当社の研究所で集積しているソーシャルメディアの情報など、匿名の状態で活用できるデータと、お客さまが保有されている既存のデータや、新たに設置したIoTデバイスから取得するデータも組み合わせて、新しい価値を生み出していければと。当社でハンドリングしながら実際に進めているケースも出始めているところです。

――IoTに興味のある企業同士をマッチングするような取り組みもされているのですか?

はい、始めています。お客さまとビジネスを進めていると、「このデータは、あのお客さまにも興味を持っていただけるのではないか」というアイデアが生まれてきますので、その場合は我々の方から動いて、業種を超えたお客さまをご紹介する“橋渡し”のようなこともしています。

――まさに、そこらじゅうにビジネスの種が転がっている状態ですね。

我々の訪問先も、これまでお付き合いのあったIT部門だけでなく、コアの事業部門や経営企画部門の方も窓口になってきています。ビジネスの潮流が大きく変わろうとしているのを、肌で感じているところです。

IoTビジネスを始めるからといって、「社内にデータサイエンティストのような専門家が必要だ」とか、「新しいデバイスの開発環境を整えなければ」などと、身構えていただく必要はありません。足りないところは、当社や他社のリソースをうまく組み合わせながら、効率よく進めていけばいいのですから。

――最後に、KDDIのIoTにおける差別化戦略を教えてください。

やはり一番大きいのは、15年にわたって積み上げてきた実績と、IoTをベースにした事業を立ち上げる中で培ったノウハウがある点です。それらを活かすことで、ひとつひとつのIoT関連サービスにも他社にはない特徴があり、IoTに必要な「デバイス(通信モジュール・センサー)」「回線サービス」「上位レイヤ(クラウド・データ分析)」というあらゆるレイヤにおいてお客さまがIoTビジネスを進めやすい環境を創ってまいります。

※1:参照「総務省 平成27年版 情報通信白書|コネクテッドカー」