「オルタナティブ・ファクト」が独裁政権を想起?

イギリス人の作家、ジョージ・オーウェルが、いまから70年ほど前に書いた近未来小説『一九八四年』が全米で読まれているという。トランプ政権が発足した1月20日以降の動きで、アマゾン・コムの売れ筋ランキングで1位になった。日本でも「ハヤカワepi文庫」の新訳版30刷が2月10日の日付で店頭に並んだ。

『一九八四年』ジョージ・オーウェル(著)早川書房

小説で描かれる「1984年」、世界は50年代に発生した核戦争を経て、3つの超大国によって分割統治されていた。このうち、作品の舞台となるオセアニアは、アングロサクソン民族を中心にした国家で「ビッグ・ブラザー」と呼ばれる独裁者と彼が率いる党が市民を支配する。

そこでは、党の正当性と権力を維持するために、思想・言語・歴史に徹底した統制が加えられる。主人公のウィンストン・スミスは、真理省記録局に勤務する39歳の役人だ。彼の仕事は、歴史の改竄にほかならない。作業に違和感を覚えつつも、現実に起こった事実や事件に即して、新聞や雑誌に掲載された過去の記事やデータを細大漏らさず書き換えていく。

こうした内容が、トランプ大統領就任式の“人出”騒動につながる。2009年のオバマ前大統領のときと比べて、報道写真では明らかに少ないにもかかわらず、スパイサー大統領報道官が「過去最高」と主張。報道官は批判を受けたが、この発言をコンウェー大統領顧問が「オルタナティブ・ファクト」(もう1つの事実)と擁護したことから、独裁政権が情報を管理するオーウェルの本を思い起こさせると指摘された。