自分の市場価値は問題発見能力と問題解決能力

――その結果、ビジネスの世界を選んだわけですね。

私が大学院に行こうと思っていた頃はまだ、「博士になったら会社に就職できない」とよく言われていました。博士はプライドが高い、研究分野が狭すぎて応用が利かないといった先入観もその風潮を後押ししていたように思います。

けれども、私にしても1つの研究を成功させるために、100のテーマを考え、その9割はうまくいかず、残り1割も早い者勝ちで、先に目を付けた課題で仮説と検証を繰り返してきました。それによって培われるのは、問題発見能力と問題解決能力にほかなりません。こうしたトレーニングを5年、10年と続けてきた結果が博士号取得につながります。しかも、これらは汎用的な能力ですから、ビジネスの場でも間違いなく使えるはずです。そして、それが自分の市場価値です。

NECに魅力を感じたのは、やはり技術力。既存のデータから抽出すべきものが何かを設定して、画像処理・解析の精度を上げることに取り組まれていて。その際、生物の特性を機械的なアプローチに応用することで、意外なブレークスルーが起こることは十分にありえます。そういう新しい風を吹き込みたいと考えました。

――入社後まだ数カ月ですが、この間の手応えは。

アメリカに約9年いて、世界の各国から集まった学生と交流していると、日本人としてのアイデンティティを意識しはじめます。日本が好きになり、日本のために働きたいと気持ちが湧いてきたのです。その意味で、いまの職場には満足しています。周囲の仲間も、ドクターも多くいて、文字どおり切磋琢磨していける環境です。

研究所のヒューマンセンシングというセクションにいますが、センシングというのは計測のこと。顔認証のほかにも音声認識や群衆動態解析にも関わっています。とにかく、直属の上司は私の能力ギリギリのところに仕事をふってくれます。適度に負荷もかかるので学習効率が高くなり、やりがいがあります。

――「ポスドク問題」はアメリカにもありますか。

日本と同じように大きな問題で、アメリカでもポストがありません。ただ、アメリカは多くの大学があるので、たくさん応募すればどこかの大学で職を得られるかもしれません。それで自分が納得できるかどうかが問題です。また 、アメリカのポスドクは私と同じように、アカデミアだけでなく企業にも目を向ける傾向が強いです。その一方で起業する人も少なくないですし、日本の「ポスドク問題」とは少し違うかもしれません。

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