極限までモノや情報、人付き合いを減らす「ミニマリスト」と呼ばれる人たちが増えているという。「捨てる」ことでどんな効果があるのか。達人に聞く。

辛いときの恩はずっと忘れない

編集者として数多くの大物作家、著名人と親交を深めてきた見城徹氏。数こそ多いが、関係のつくり方は究極のミニマリストだ。見城氏の編集者人生は、狙いを定めて全力で向き合う「正面突破」が貫かれてきた。

見城 徹●幻冬舎社長。1950年、静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、75年角川書店に入社。「月刊カドカワ」編集長、取締役編集部長を経て、93年幻冬舎を設立。著書に『編集者という病い』『たった一人の熱狂』など。

「異業種交流会やパーティー、催しと名のつくものは全部くだらないと僕は思っているわけ。よっぽど義理のある人に頼まれない限り、参加しないよ。表面的な名刺交換をして、『いい天気ですね』って雑談をする程度で関係性がつくれるはずがないじゃないですか。人脈ができたと勘違いしても、実際は余計な名刺が増えただけ。“人脈”って言葉自体、大嫌い」

結婚式も、義理のある人物が関わっていない限り参加しない。

「土曜か日曜を潰されて、ご祝儀を包むわけだ。僕の年になると主賓挨拶か乾杯を頼まれるから、前もってスピーチの内容を考えなきゃいけない。時間を費やして、お金払って、事前準備もするって、三重苦だよ。面倒だし、無駄以外の何物でもない」

パーティー等への出欠の判断基準は義理の有無。稀に参加するのは、“GNO”を大切にしているからだ。

「人と関わるうえで一番大切なのは、義理、人情、恩返し。頭文字をとって僕はGNOといっている。たとえば、23年前、角川書店を辞めて徒手空拳の僕に、わざわざ雨の中やってきて、ラーメンをご馳走してくれた人がいたんです。自分が一番辛いときに真心を示してくれた人への恩は、ずっと忘れませんよ。僕にとっての義理とは、恩を感じるかどうか。利害損得と関係ないよ。今ではその人と年に1回くらいしか会わないけど、一生、義理は果たそうと思いますよ。GNOをないがしろにしたくないし、ないがしろにする人とは付き合えないよ」

GNOが所以で始めたのが、「755」だった。2013年に仮釈放された堀江貴文氏が、サイバーエージェントの藤田晋氏と立ち上げたSNSである。「755」の名前は、堀江氏の囚人番号をもとにした。見城氏は、「是非とも参加してほしい」と2人から頼み込まれた。スマートフォンはおろか、パソコンの使い方さえもままならなかったが、経営者として見初め、交流を深めてきたほかならぬ2人の願いだ。聞かないわけにはいかない。期間限定、という約束で承諾した。引き受けた以上は真面目に取り組む。GNOをないがしろにできないからだ。

「すぐに、一般の人たちから僕への質問が大量に書き込まれた。僕は性格的に、全員にちゃんと返さないと気が済まないんだよ。返したり、返さなかったりするのは嫌だった」