社会の高齢化がますます進むなか、ヘルスケアの分野で新しい流れが生まれている。今、シニア世代の健康維持や介護にあたって押さえておきたいポイントは何か──。みずほ銀行産業調査部公共・社会インフラ室に取材した。

“健康寿命”の延伸が国の一大目標に

現在の日常生活に満足しているか──。内閣府が2014年に実施した「高齢者の日常生活に関する意識調査」で全国の60歳以上を対象にこう問いかけたところ、およそ7割がおおむね満足していると回答した。

ただ一方で、生活の基盤となる健康について不安を抱える人が多いのもやはり事実。同調査で将来の日常生活への不安について聞くと、7割近くが「自分や配偶者の健康や病気のこと」を挙げ、トップを占める結果となった。

高齢者本人にとっても、周囲で支える家族にとっても、健康の維持は最優先のテーマの一つだ。しかし、それをとりまく状況は厳しさを増している。みずほ銀行産業調査部公共・社会インフラ室の吉田篤弘調査役は、「高齢者を支える生産年齢人口が減少するなか、団塊の世代が75歳を超える2025年には、社会保障給付費の中の医療費は2014年度比で1.5倍、介護費は2.1倍になると見込まれています(グラフ参照)。そこで介護給付の中身も、介護ニーズの高い方、医療ニーズの高い方、認知症の方への重点化・効率化を考えざるを得ない状況です」と語る。

政府も、本年6月の「日本再興戦略2016」で病気の予防にいっそう力点を置く方向性を打ち出した。特に高齢者の健康について目標の一つとして挙げているのが、心身ともに自立して健康的に生活できる「健康寿命」を伸ばすこと。これを起点にして、本人の生活の質を上げ、家族の負担を減らし、医療費・介護費の増加を抑制していこうというわけだ。

個人の健康への意識を引き出していく

吉田篤弘 (よしだ・あつひろ)
みずほ銀行 産業調査部
公共・社会インフラ室 調査役

7月の厚生労働省の発表では、日本人の平均寿命は女性87.05歳、男性80.79歳といずれも過去最高を更新した。ただし平均寿命から健康寿命を引いた“健康ではない期間”は2013年の時点で男性で9年、女性で12年を超えているという数字もある。

健康寿命延伸にかかわる産業が発展し、関連製品・サービスの効用で医療・介護サービスの利用が減って、財源に余裕のできた政府がさらに産業振興に力を入れる。そうした好循環をつくるには、製品・サービスの効果を客観評価する効果検証、利用を広げるインセンティブの強化、事業の収益性を確保するマネタイズの実行が鍵になるという。