みずほ銀行産業調査部公共・社会インフラ室の川手康司室長は、特にインセンティブの強化について、次のように語る。

川手康司 (かわて・こうじ)
みずほ銀行 産業調査部
公共・社会インフラ室 室長

「病気の予防や健康寿命の延伸においては、40歳以上の7割を占める健康に関心の薄い層も含む多くの個人の行動を引き出すことが重要。そうでないと、社会的な効果も限られてしまいます。健康保険の提供者が被保険者の健康づくりサービスを実施する仕組みをつくったり、行政が個人の望ましい行動に対してヘルスケアポイントを付与したり、サービスを提供する企業が利用者の関心を引くようなプログラムの開発に力を入れたり──。健康意識の高い人たちばかりでなく、一般の人のやる気も引き出せるような工夫をすることが必要です」

健康寿命延伸サービスとして、エンターテインメント企業がカラオケ機器を活用した介護予防・健康増進サービスを提供したり、化粧品メーカーが高齢者に化粧療法講座を行うサービスも登場し、注目を集めている。

「健康を維持するための行動というと、どうしても実施する側に負担感が出てしまいがちです。でも、専門家のサポートを受けながら、日頃から慣れ親しんだカラオケなどを楽しむことで健康になれるのであれば、本人に負担感はありません。そうした“日常の生活のなかでの行動”を生かしたサービスが、利用者に選ばれ、健康寿命の延伸に寄与するのではないかと考えています」(吉田氏)

これまでの生活を続けるためのサポートを

家族の介護・看護のために年間で約10万人が離職するなど介護離職が社会問題化するなか、介護が必要となった人やその家族を支える体制づくりもより重要になっている。

「介護・医療は重要な政策課題であり、保険財政の問題もあいまって、新サービスの登場が望まれる分野になっています。実際、少子高齢化が進むなか、今後の国内マーケットのあり方を考慮して、製造業からサービス業まで多くの民間事業者が、この分野の関連サービス提供に真剣に取り組み始めています」(川手氏)

介護施設を利用するにしても、在宅介護を選ぶにしても、こうした外部のサービスを上手に活用しながら、自立した形でハリのある生活を送ることが、心身の健康レベルを維持し、介護度の悪化を防ぐ上でも役に立つだろう。

「介護保険のあり方も、できなくなったことをカバーしてもらう方向から、これまでの日常生活を続けられるようにするため、必要な部分のサポートを受けるという方向性にいっそう変わっていくことが予想されます。そうしたなかでは、個人の状況に応じて何のサービスをどう利用すればいいのか、最適な選択をする必要が出てくるでしょう。公的なサービス、民間のサービスを組み合わせて高齢者に提案していくような動きが求められていくと考えています」と吉田氏は言う。

現在、シニアのニーズを的確にとらえた製品やサービスが次々に登場している。それらをいかに上手に活用できるか──。その違いが、健康寿命の長さに影響する時代がやってきているのである。