自分らしい「リーダーシップ」を模索

嘉納さんがユニークなのは、やりたい職種にまっすぐなところだ。身分や給与は二の次。その当たって砕けろ精神が道を開いていく。

「2000年に集団食中毒事件があって、その影響から食品会社には消費者からの問い合わせが殺到していました。それで急きょ募集があったネスレへ」

コーポレートアフェアーズ統括部 エクスターナルリレーションズ部 部長 嘉納未來さん。「社外広報」責任者としてメディア、関係省庁等との関係構築に力を注ぐ。「男性的なリーダシップは似合わない。自分らしさを模索しています」

翌年には正社員への扉が開く。本人は「地声が大きいだけ」と謙遜するが、熱心な対応ぶりが上司の目に留まって入社試験を受けるよう求められた。

入社後は新たなコールセンターの立ち上げに関わり、その経験を買われて、2005年4月からはスイス本社へ、消費者の声を経営に活かすためのプロジェクトのメンバーとして8カ月間赴任。帰国後はお客様相談室長、そして広報室長へとキャリアアップが続く。食品偽装問題や中国原材料問題など食品業界への信頼が揺らぐ事件が続く中、難事案の対応を迫られ、無我夢中で歩んできたという。部下を抱える身となったいま、嘉納さんは自分らしいリーダーシップを模索中だ。

「権限を委譲しつつ必要なときには的確な助言をする、男性的なリーダーシップは私には難しい。逆に部下からガツンと言ってもらって『ごめん、私も考えるから一緒につくっていこうよ』というスタイルが私らしいかな。そういう何でも言い合える関係をつくっていければ」という嘉納さん自身は、部下にチャレンジさせて、失敗しても「ちゃんと俺が見てやるぞ」という男性上司に育てられてきた。

「上司からはチャンスをいただき、後押ししてもらい、感謝しかありません。私は古いタイプの人間だったので言われるままで来ましたが、いまだったら絶対、自ら声を上げていかないとだめ。ネスレ日本は変わりつつあります」

2010年から導入されている「イノベーションアワード」は、社員が声を上げる仕組みのひとつだ。自らが発想し実践した新規の取り組みを応募し、成果を競う。2014年は約2000件の応募があり、選考にあたっては役員から新人まで年齢・性別・国籍関係なし。2012年に金賞を受賞した、スーパーのイートインコーナーなどで手軽にコーヒーが飲める「カフェ・イン・ショップ」は女性の契約社員のアイデアだという。

「声を上げれば、意見が通って会社を変えることができる可能性が、誰にでもある。そのことを実際に示す意味でも、イノベーションアワードは貢献しています」と前出のダイバーシティユニットの責任者である藤沢さんは言う。