しずかちゃんの入浴シーン(ドラえもん)、ワカメちゃんのパンチラシーン(サザエさん)、如月ハニーの変身シーン(キューティーハニー)、レイやアスカのヌードシーン(新世紀エヴァンゲリオン)……。

事情を知っていれば、これが何を意味するかすぐにピンとくるが、そうでなければ何のことかさっぱり分からないだろう。18歳未満の子どもを「性的対象」として描く漫画やアニメを規制するため東京都が成立を目指す「青少年健全育成条例」改正案に関し、「規制の対象外」として都側が示した“具体例”である。

随分と馬鹿げた話に思えるが、東京都は大まじめのようだ。これを都のホームページにも掲載し、条例改正への「理解」を求めるのに躍起となっている。だが、改正案に反対する明治大学の藤本由香里准教授(漫画文化論)はこう指摘する。

「確かに馬鹿げていますが、成立すれば影響は深刻です。条文が極めて曖昧で、何が健全かの判断は行政がいくらでも恣意的に解釈できる。“具体例”を示さねばならなかったのも条文が曖昧だからです。これでは日本が誇る漫画やアニメ文化の息の根が止まりかねません」

東京都が条例改正案を最初に示したのは2月だった。その骨子は次の通りだ。(1)漫画やアニメ等に登場するキャラクターのうち、服装などから18歳未満と判断されるものを〈非実在青少年〉と定義。(2)こうした〈非実在青少年〉を〈みだりに性的対象として肯定的に描写〉した作品は、青少年の手に渡らぬよう出版社や書店などに自主規制を求める。

都はこの改正案を2月の都議会定例会に上程し、わずか1カ月の会期内での成立を目指した。当初、改正案は一般にあまり知られていなかったが、ネットなどを通じてその内容が伝えられはじめると反発が拡散し、多数の著名漫画家らが激しい反対を唱えるに至ったのである。

例えば3月15日には、ちばてつや氏や里中満智子氏、竹宮惠子氏らが都庁で会見し、口々にこう訴えている。

「生身の人が傷つくわけではないのに、作者の発想力から生まれたキャラクターまで規制をかけるのは恐ろしい。」(里中氏)

「お上に『これはいい』『これは悪い』などと決めて欲しくない。文化や表現にはいろいろな花が咲くが、『これは汚い』と根を絶てば、全体が滅ぶ」(ちば氏)

「必要に応じて(性的場面を)表現することはある。それも規制の範囲に入ることに危惧を抱く」(竹宮氏)

著名漫画家が声を上げたことでメディアも改正案に注目し、賛否の議論は沸騰した。これを受けて都議会では野党の民主党が慎重姿勢に転じ、2月定例会での成立は見送られたが、都はあきらめなかった。改正案を所管する青少年・治安対策本部は何度も〈報道資料〉を発し、繰り返しこう主張したのである。〈「漫画・アニメ業界の衰退を招く」との批判は当たらない〉(3月17日)、〈子供の強姦シーン等を描いた漫画を子供に見せない・売らせないための条例改正です。描いたり、出版したり、大人に売るのは規制されません〉(4月16日)

そして4月26日には改正案に関する〈わかりやすい質問回答集〉なるものまで公表し、6月の都議会定例会に改正案を再上程した。この「回答集」に記されたのが、冒頭に紹介した「規制対象外」の“具体例”だ。