果たして株主はカゴメに何を望んでいるのか。思い悩んだ長井氏は、それを探るためにアンケート調査を実施した。じつはそれまでも何回かアンケートを実施していたが、返信は500通に満たなかった。そこで500円分の図書券をつけたところ、返信数は4倍に。そこでようやく見えてきたのが、「カゴメ商品の試食会をやってほしい」という株主の要望だった。

こうした声を受け、2000年の株主総会時に株主懇親会「メニュー紹介&試食会」を開催。これが現在の株主フォーラムの原形だが、第1回は大失敗に終わっている。

「200人分の料理を準備していましたが、ものの10分で料理がなくなってしまったんです。ろくに試食できなかったお客様からは非難囂々。ただ、当時の社長は『新しいことに挑戦するのだから、2、3割の失敗があるのは当然。7割成功すればいいじゃないか』と言ってくれた。その言葉が心の支えでしたね」

寝耳に水だった「ファン株主10万人計画」

逆にトップの言葉が重荷になったこともある。01年、ニュース番組の取材で、社長がいきなり「ファン株主10万人計画」をぶちあげたのだ。

「それまで株主3万人を目指すという話は聞いていましたが、10万人は寝耳に水。慌てて社長に問いただすと、『このくらいの目標を掲げないと、キミたちは一生懸命仕事しないだろ』と返されました。それが実際にテレビでも流れて、後に引けない状況に。あのときはさすがに青くなりました……」

グランドプリンスホテル新高輪(東京)で開かれた「株主フォーラム」にて。喜岡浩二社長の決算説明に2200人強の株主が聞き入る。

グランドプリンスホテル新高輪(東京)で開かれた「株主フォーラム」にて。喜岡浩二社長の決算説明に2200人強の株主が聞き入る。

ただ、それが良い意味でのプレッシャーになったのか、長井氏は次々に個人株主拡大に向けての施策を打ち出していく。まず単元株を1000株から100株にくくり直し、個人投資家がより小さい金額で株式に投資できる環境を整えた。そして新たに株主優待制度を導入。春と秋の年2回、カゴメ商品を贈呈することで主婦層の獲得を狙った。

さらに金融機関との持ち合いを解消して、株式の売り出しを実施した。株式売り出しは金融機関に面倒をかけることになるが、粘り強く交渉して、金融機関保有の1600万株のうち800万株を放出してもらうことになった。また、株主総会と同時開催だった株主懇親会を個別に開催。試食をより楽しめる環境を整えることで、参加株主数も雪だるま式に増えていった。