医師を集めれば様々なビジネスになる

会社のビジネスモデルは、有価証券報告書の【事業の内容】で確認することができます。それによれば、エムスリーは主に「m3.com」という医療従事者専門のポータルサイトを運営しており、そこでは専門医療情報に特化したニュースや文献検索、会員専用コミュニティサイトといった独自のコンテンツなどを会員である医療従事者に対して無料で提供しています。2015年3月末の段階では約25万人の医師を含む医療従事者がこのサイトに会員登録しており、これは国内最大規模となります。そしてこの医療従事者会員を基盤として、エムスリーではさまざまなサービスを提供しています。

有価証券報告書の【事業の系統図】を見てみると、エムスリーの稼ぎ頭は膨大な会員数を誇る「m3.com」であり、そこで製薬会社による医薬情報や広告などを掲載することで、顧客企業から収益を得ておることが分かります。

そして「アスクドクターズ」では「m3.com」の会員で、そのサービスに賛同した医師が質問に回答しています。会員からの評価に応じてポイントがつき、「m3.com」内でさまざまな商品と交換できる仕組みになっていますが、それよりも「困っている人を助けたい」という気持ちが、医師たちの回答に対するモチベーションになっているようです。ということは、医師の人件費はほとんどかからないことになります。「アスクドクターズ」はエムスリーにとって、本業の資源を有効活用した副業のような位置づけだからこそ、低価格でのサービス提供ができたのです。

なお、エムスリーは医療ポータル事業の他にも、臨床試験をサポートするエビデンスソリューション事業や海外事業などを展開しており、いずれも急成長を遂げています。

以上、今回はエムスリーについて見てきました。エムスリーは3つのM、Medicine(医療)、Media(メディア)、Metamorphosis(変革)から名付けられました。「インターネットを活用して、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」というその志は、今後ますます多くの賛同を得て、さらなる社会貢献を果たしていくことでしょう。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。