英語によるコミュニケーション能力を測定するTOEICテストは、第210回TOEIC(R)公開テスト(2016年5月29日実施)より、出題形式を一部変更した。さらにこのたび、TOEIC Programを実施・運営している一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)は、各テストの名称を変更した。5月の公開テストの結果とその反響、TOEIC Programの「現在」について、IIBC常務理事 山下雄士氏に話を聞いた。
出題形式が一部変更されても平均スコアに大きな変化なし
Q.今年5月29日に実施されたTOEIC 公開テストより、出題形式の一部が変更されましたが、どのような点が変更されたのでしょうか? また、変更に踏み切った理由をお聞かせください。
【山下】まず理由から申し上げますと、英語の使い方や使われる環境が、ここ10数年で大きく変化したからです。インターネットなどの普及により、私たちは、Eメールやチャットといった方法でコミュニケーションをとっていますよね。ビジネスにおいても現在は、英語圏の人はもちろん、英語を母国語としない国の人たちも、英語を共通言語として会議を行い、商談のやりとりをすることが普通になっています。
TOEIC Programでは、より“オーセンティック(実際的)”な出題形式を採用しています。現実の世界で使われている題材を使い、英語の能力を測定することを旨としていますから、テスト問題も英語をとりまく環境の変化に応じて、アップデートする必要があると考えたのです。
では、具体的にどんな部分が変わったのか。一例を挙げると、リスニングのテストで、従来は2人による会話だったものに3人の会話が追加されたり、リーディングのテストでは、2つの文書からなるダブルパッセージとともに、3つの異なる資料を同時に見ながら設問に答える、トリプルパッセージの問題が加わったりと、よりオーセンティックな出題形式に変更。
Q.新形式導入について、受験者からはどのような声が聞かれましたか?
【山下】アップデート前とアップデート後の両方を受けている受験者に対してアンケートをお願いしたところ、2,500名の受験者の方々が回答してくださいました。そのうち「むずかしいと感じた」という方が約8割近くいらっしゃいました。一方、テスト結果を見ると、1年前に実施された、TOEIC公開テストの平均スコアは578点だったのに対し、新形式問題を導入した今回の公開テストの平均スコアは572点と、ほぼ変わっていませんでした。その理由には、問題の一部が新形式に変わっても、問題内容の難易度は、変わっていないことが挙げられます。新しい形式に受験者がまだ馴染んでいないため、「むずかしく感じた」という方が多かったのではないかと思います。
ぶれのないスコアで評価する。TOEIC Programの各テストスコアは、常に評価基準を一定に保つために統計処理が行われています。能力に変化がない限りスコアも一定に保たれます。これこそが、「信頼性のあるモノサシ」たるゆえんです。TOEIC Programは、米国に拠点を置き、言語学者や統計学者など、さまざまな分野の専門家が集結する、世界最大のテスト開発機関であるETS(Educational Testing Service)が、開発および制作を行っています。彼らが理念として掲げている重要な3つの柱が、「公平性(fairness)」「妥当性(validity)」「信頼性(reliability)」です。世界中のさまざまなバックグラウンドを持つ英語学習者が、公平に受験することができ、一問一問が英語のどの能力を測るのか、あらかじめ定められた規準に基づいて制作されている。そして、いついかなるときも「公平性」と「妥当性」を遵守し、品質の高いテストを提供し続けるというのが、ETSの理念なのです。
今回のTOEICの新形式導入にあたっても、それら3つの柱が機能しているかを検証するために、ETSは事前に複数回のパイロットテストを行っています。こうした確固たる設計思想が、「スコアの一貫性」に表れているわけです。