工場や倉庫のほか、事業用の施設等を建てようとする企業の間で、いまシステム建築が注目を集めている。在来の工法と何が違い、施主にどんなメリットを提供するのか─。システム建築の果たす役割を解説する。

安定供給が可能で、品質管理も確かなシステム建築は今後の鉄骨造の主流になっていくでしょう。

山田 哲●やまだ・さとし
東京工業大学
建築物理研究センター 教授
博士(工学)


1965年生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。同専攻博士課程中退。98年に東京工業大学応用セラミックス研究所建築物理研究センター助教授、2008年同センター准教授などを経て、14年から同センター教授。日本建築学会奨励賞(論文)、日本免震構造協会賞技術賞などを受賞。

大空間に適している鉄骨造
さまざまな建物が採用

システム建築とは、柱や梁、屋根、外壁といった部材を標準化することで、より効率的な建築を実現する工法のこと。合わせて、設計や施工、アフターサービスなどの業務プロセス全体もシステム化され、それらがまとめて商品として提供される。現在、このシステム建築が鉄骨造の建物などで着実に普及し始めている。

そもそも鉄骨造が日本に入ってきたのは明治時代。本格的に採用されるようになったのは、第二次大戦後、特に高度成長期以降だ。

「鉄骨は、鉄筋コンクリートに比べると重量が軽く、木材に比べると当然強度がある。これが一つの特徴です。そのため、長い梁を使って柱の少ない大空間をつくるのに適してます。例えば飛行機の格納庫などをイメージしてもらうと分かりやすいでしょう」

こう話すのは、鉄骨造建物やその耐震性の研究が専門で、システム建築による建物の性能評価などにも携わる東京工業大学の山田哲教授だ。

「もちろん、そのほか平屋でも、ビルでもさまざまな建物に鉄骨は使われています。1960年代に入ると、国内の鉄鋼メーカーがH形鋼などの鋼材の生産を拡大。さらに新耐震基準が設定された80年代以降は、各種建物の建て替え需要に応える形で構造材に占める鉄骨の割合が大きく伸張したという経緯があります」

部材の標準化がもたらす適正な作業環境

質の高い鉄骨造建物をより効率的に、より低コストで──。そうしたニーズを背景に、システム建築が日本で広がり始めたのもちょうど80~90年代だ。そのメリットについて、山田教授は次のように説明する。

「やはり各種部材を一定の管理下で量産できるのが利点でしょう。いわゆる“一品もの”の建物の部材は設計に基づいて一点ずつ加工することになりますが、システム建築の部材は標準化されているためラインを組んで生産しやすい。これが適正な作業環境の確保につながるのです」

例えば一品ものの部材づくりで溶接を行う場合、個別の部材のためにその都度工場内で作業環境を整えるのは大変だ。するとどうしても、人間の側が環境に合わせて作業をすることになる。仮に溶接工が無理な姿勢での作業を強いられれば品質に影響しかねない。

「システム建築では、部材に合わせた作業のスペースなどをあらかじめ確保できるので、そうしたリスクを軽減することができるわけです。また部材の標準化は、その品質確保に欠かせない検査工程においても、合理化と精度の向上をもたらしてくれるでしょう」と山田教授は付け加える。

ところで、部材を量産するからといって、建物の形状や面積に大きな制約があるわけではない。フレームの大きさや、外壁、屋根のタイプなどは多様で、その組み合わせによって比較的自由な設計が可能だ。近年はデザイン性の高い商品も多く登場し、工場や倉庫のほか、店舗やオフィス、スポーツ施設、福祉施設などにもシステム建築の利用は広がっている。