2016年3月5日(土)

「幸せな死」をプロデュースする「看取り」という仕事

命を紡ぐ 現場の声【1】

PRESIDENT Online スペシャル

著者
柴田 久美子 しばた・くみこ
看取り士

柴田 久美子島根県出雲市生まれ。日本マクドナルド勤務を経て、1993年、特養老人ホームでの勤務、2002年、看取りの家「なごみの里」を設立。「幸(高)齢者様1人に対して介護者3人の体制で寄り添う介護」と、自然死で抱きしめて看取る実践を重ねる。2014年岡山市に拠点を移す。講演活動や看取り士の育成など、日本各地で精力的に行っている。

看取り士 柴田久美子 取材・構成=田中響子
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私たちは皆、いずれは死ぬ。これは誰にも避けることのできないことです。しかし、最期の瞬間は人それぞれです。「人生の道のりがどんなに苦しいものであったとしても、最期の1%が幸せであれば、幸せな人生として終えられる」と言い続け、死を看取ってくれる“看取り士”という職業があります。看取り士第一号であり、多くの人に“幸せな死をプロデュース”する看取り士の柴田久美子さんにお話を伺いました。

人は死ぬときにエネルギーの受け渡しをする

看取り士の柴田久美子さん。

私は子どもの頃に父を自宅で看取りました。父の私への最期の言葉は「ありがとう」でした。父の死はもちろん悲しかったのですが、それを見て、「死」とは温かく荘厳なものだという印象がありました。このときのイメージが、後に大手飲食店での勤務や介護現場での経験を経た私に、「看取り士」になる決意をさせてくれたのです。看取りは、旅立つ人だけでなく、見送る人にとっても貴重な体験です。私はそれを「命の受け渡し」と呼んでいます。まさに逝く人と見送る人の間でエネルギーの交信が行われるのです。そして、それはすべての人に起こります。

看取り士とは、余命宣告を受けてから納棺まで、ご本人やご家族、医療従事者らと相談しながら、その方の人生の最期を見守る仕事です。「死」に慣れていないご家族には、ご本人とご家族が幸せな最期が共有できるよう、そばにいてお手伝いをします。

看取り士は、お亡くなりになる前から、旅立つ方のお傍にうかがい、お身体を抱きしめるといったことをします。病院でもご自宅でも、可能な限りどこででも看取りにうかがいます。マザー・テレサの有名な言葉に「人生の道のりがどんなに苦しいものであったとしても、最期の1%が幸せであれば、幸せな人生として終えられる」とあります。私たちの役割は「幸せな最期」をお手伝いさせていただくことなのです。

旅立つ方は、旅立つ準備が始まると体に変化が現れ始めます。私たち看取り士は、その方のお身体を抱きかかえて、その方の旅立ちまで共にいます。個人差はありますが、旅立つ方は、旅立つ瞬間の数時間前から、呼吸が荒くなります。また、実際には体は冷たくなってくるのですが、敏感な人には旅立つ方のエネルギーが熱くなるのを感じます。その方のエネルギーを感じて抱いている方が汗ばむほどです。看取り士は24時間体制で旅立ちを見守る準備に入ります。ご家族が立ち会われている場合は、皆さん交代で抱いていただいたり、全員にできるだけ体に触れていただきます。体に触れることから、伝わることがたくさんあるからです。

命が旅立つ瞬間は、命の受け渡しのときです。瀬戸内寂聴さんは、「人は旅立つ時、25メートルプール529杯分の水を瞬時に沸騰させるくらいのエネルギーを傍らにいる人にわたす」とおっしゃっていますが、まさにそれくらいの膨大な、温かで神々しいエネルギーを感じます。縁あって家族になられたわけですから、ご家族のご臨終時には、ぜひこのエネルギーを感じて受け取っていただきたいと思います。

ご臨終を迎えられても、まだお身体にはぬくもりが残っています。私たちは、「エネルギーの循環はまだ続いている」ととらえ、しばらくの間、お身体を抱き続けます。

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