財務省事務次官 丹呉泰健(たんご・やすたけ)
1951年、東京生まれ。74年東大法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。文書課長、理財局長、官房長、主計局長などの主要ポストを歴任した。今年7月に事務次官に就任。バランス感覚と人柄の良さに定評あり。


 

「官庁の中の官庁」と呼ばれる霞が関の盟主、財務省は逃げなかった。民主党政権誕生のカウントダウンが続く中、財務省は事務次官に丹呉泰健主計局長を昇格させた。

主計局長は次官への待機ポスト。次官のバトンを同期の杉本和行氏から受け取るのは既定路線だった。だが、霞が関は「財務次官に丹呉氏」の報を固唾を呑んで見守っていた。

丹呉氏は小泉政権で5年半、首相秘書官を務めた。首相秘書官は、財務、外務、警察、経済産業の4省庁から事務担当秘書官が選ばれ、財務省出身者が筆頭格として、官邸を取り仕切る。郵政民営化や歳出削減路線など、小泉政権が推し進めた構造改革を支えた懐刀。丹呉氏は政務担当首相秘書官の飯島勲氏と並ぶ小泉官邸の主役だった。

民主党は小泉改革やその推進役の経済財政諮問会議を真っ向から否定し、官僚主導政治の打破を叫ぶ。政権奪取の可能性を高め、現実路線への転換を模索し始めたが、これまでは幹部官僚に辞表を提出させ、民主党に忠誠を誓わせる「踏み絵」も口にしていた。

それだけに「ミスター小泉改革」ともいえる存在の丹呉氏を財務省は本当に次官に昇格させるのか。次官人事を凍結するのではないか。各省庁は、財務省を横目に幹部人事を決めかねていたが、「丹呉次官」の正面突破策を見て、一斉に腹を固めた。

政治主導も霞が関が動かなければ、政策は実現できない。敵視政策だけでは官僚は動かない。霞が関をなびかせるには財務省を抑えるのが先決だ。

丹呉次官の下には、勝栄二郎主計局長、真砂靖官房長、香川俊介総括審議官と民主党にパイプを持つ人材がずらりと並ぶ。民主党と財務省の手打ちはあるのか。丹呉次官の動向に永田町と霞が関の注目が集まる。