ウォール街で巨額の富を得た後、地球を2度1周した世界的投資家は、これまでどんなところから学び、どのように情報を取り、それをどう分析して巨額の富につなげたのだろう。その情報術について探ってきた。
――金融の世界に入られて数十年経つと思いますが、どうやって投資に関する情報を入手してこられたのですか。
ジム・ロジャーズ氏

今のようにインターネットがない時代は、複数の米紙を読むのに加え、英国やカナダ、日本などの新聞を取り寄せて毎朝読んでいました。そして、できる限り多くの個人や企業を訪ね、彼らの競合相手からも話を聞きました。このやり方は今も変わっていません。

たとえばトヨタ自動車について調べるなら、フォードや日産からも話を聞いて異なる視点に触れる。競合相手のことになると、とかく人は饒舌になるので思わぬ収穫があります。コンファレンスコールなどない時代には、1日に15社訪問したり、1週間で5都市をまわったりしましたが、まったく苦にならず、むしろ楽しくてしかたがありませんでした。

私がウォール街で働き始めた1960年代当時は、それこそ永遠に続くのではと思われたほどの好景気で、誰もが「いとも簡単に稼げる」などと調子のよいことばかり口にしていたのです。でも、バブルはあっけなく崩壊した。

このことで、私は物事に対して疑いの目を持つべきだと悟ったのです。メディアで見聞きしたことを鵜呑みにせず、まずは可能な限り多方面から情報を得ることです。そうすれば、現実に起こっていることの核心を見つけ出すことができるのですから。

70年代にジョージ・ソロスと立ち上げたヘッジファンドが成功したのも、ほかの人が目もくれないようなところに投資したからです。当時はまだ、たとえば日本に興味を持つ投資家は非常に少なかったのですが、2人とも海外に目を向けていました。空売りもやっている人はほとんどいませんでしたが、私たちは積極的に行いました。

今振り返ると、多額の借り入れがあっていつ倒産してもおかしくなかったのですが、投資先の選択が正しかったので利益を得ることができたのです。もし間違っていたら、1日ですべてを失っていたでしょう。

最近の例を挙げると、私はアップル社の株を2012年9月に空売りしました。多くの人々が同社に対して過度に期待していましたが、天井知らずで上がり続けるものなど存在しません。私は今後、競争が激化するだろうと考えました。すでに同社の製品はみんな持っているのですから、マーケットは飽和状態に陥りつつある。サムスンなどの競合他社がさらに良い製品を出すかもしれない。これから悪くなる、衰退すると思ったら、私はその企業の株を売ります。下がっていきそうなときに空売りすると儲かりますからね。