2014年11月21日(金)

錦織圭「勝てない相手はもういない」と豪語する力

PRESIDENT 2014年11月3日号

夏目幸明=構成 小倉和徳、村越将浩=撮影
1
nextpage

いかにして自信を身につけたか

錦織 圭
島根県松江市出身。5歳でテニスを始める。2003年、(財)盛田正明テニスファンドの強化選手に選ばれ、IMGアカデミーにテニス留学。07年のジャパンオープンでプロ転向。14年、全米オープンでは、アジア人初グランドスラム準優勝という快挙を成し遂げた。

今回の全米オープンにおける錦織選手の活躍の中で私が強い印象を持ったのは、ベスト4進出時の記者会見です。彼が「勝てない相手はもういないと思う」と言った瞬間、背後にあるストーリーが思い出され、鳥肌が立つほどでした。

彼は日本の小学生のチャンピオンになり、盛田正明(ソニー創業者・盛田昭夫氏の実弟)テニスファンドの奨学生として13歳で単身渡米しています。言葉がわからず、周囲にもからかわれ「自分は本当にダメだ」と深く落ち込んだこともあったそうです。しかしその後、彼は「テニスが大好きだから」と、その気持ちを糧に頑張り、プロデビュー後、IMG(米フロリダ州のIMGニック・ボロテリー・テニス・アカデミー)のエリートに選抜されて米国のデルレイビーチ国際選手権で優勝します。

私が彼にインタビューをしたときの印象は、非常に謙虚、というもの。たとえば試合の解説を務めていたジョン・マッケンローが「彼はいつかグランドスラムのメンバーに入るだろう」と言ったことに対しては「本当に光栄です」と言い、その後、フェデラーと練習試合をさせてもらったことに触れ、「彼のような選手になりたい」「一緒に練習できたことは僕の宝物」とも話していました。いわば、まだ遠くに山の頂を仰ぎ見て、憧れを糧にしていたのです。

しかしこのあと彼は変わります。きっかけは、昨年12月にIMGがマイケル・チャン氏をコーチに選んだことだと思っています。「錦織選手の技術はグランドスラムを勝てるまでになった。今こそグランドスラムを獲ったことがあるコーチを」と考えたのです。その後、チャン氏は常に、錦織選手へこのように声をかけたそうです。

「Believe,Believe,You can do it(自分を信じろ! 君ならできる!)」。錦織選手が「フェデラーにあこがれている」と言えば「何を言ってるんだ。君はフェデラーに勝ったじゃないか!」「どうしてチャンピオンに相応しい自分の実力を信じないんだ」と言い続けたのです。

その一方、チャンコーチは錦織選手に、まるでジュニアの選手がやるような基本的なトレーニングを課し技術面を徹底的に修正しました。そして――ここから1年も経たないうちに彼は記者会見で「勝てない相手はもういない」と話すのです。

この事実は「経験が言葉を導き出す」ことを示しているのだと思います。彼は間違いなく、何の裏付けもなく「負けるような気がしません」などと言う人物ではないのです。彼は自分を信じる「王者のメンタリティ」を身につけ、同時にトレーニングには「ジュニアのような謙虚さ」で臨んだ、その結果、本当に「勝てない相手はもういない」と確信し、あの発言をしたのだと思うのです。一見、この発言は「大言壮語」タイプの人が口にするもののように思えます。しかし彼の言葉は冷静な判断と、努力という裏付けを持つ「実を伴う」ものだったのです。

PickUp