カリフォルニア大学バークレー校の気鋭の経済学者、エンリコ・モレッティの新著『年収は「住むところ」で決まる』では、この現象を「イノベーション産業の乗数効果」で説明しています。イノベーション系の仕事(たとえばエンジニア)1件に対し、地元のサービス業(たとえばヨガのインストラクター)の雇用が5件増えることがわかっています。この乗数効果は製造業2倍以上。この差が都市格差を拡大させ続けています。ものづくりにこだわる日本の針路についても考えさせられます。
※本連載では、プレジデント社の新刊『年収は「住むところ」で決まる』から「日本語版のための序章」を抜粋して<全4回>でお届けします。
繁栄の新しいエンジン
イノベーションは、雇用に大きな影響を及ぼす。しかも、その影響力は強まる一方だ。今日の経済では、生産プロセスにおけるイノベーションの段階がどの土地でおこなわれるかが、これまでになく大きな意味をもつようになっている。製品に最も大きな価値を加えるのは、イノベーションの段階だからだ。いかなる物理的な部品よりもアイデアが重要な時代がやって来たのである。部品をつくることはさほど難しくないので、それだけでは大きな価値を生み出せない。歴史上はじめて、目に見える物体や貴重な天然資源ではなく、革新的なアイデアが希少性をもつようになった。そうなれば当然、新しい製品が生み出す価値から最も大きな取り分を手にするのは、イノベーションを担う人たちということになる。
iPhoneは634種類の部品で構成されている。そのなかで、ナットやボルトのようなありきたりの部品がつけ加える価値は非常に小さい。そうした部品は、価格競争がきわめて激しい業界でつくられており、世界のどこでも製造できるからだ。それよりは専門性の高いフラッシュメモリーやコントローラーチップなどの部品は、いくらか大きな価値をつけ加えられるだろう。しかし、iPhoneの価値のかなりの部分は、この商品の発案とデザインが生み出している。だからこそ、アップルはiPhone1台ごとに321ドルという、どの下請け業者よりも多くの金を得ているのだ。
ひとくちにイノベーション関連の仕事と言っても、さまざまな種類がある。IT、ソフトウェア、オンラインサービス、ナノテクノロジー、クリーンテクノロジー、それにバイオテクノロジーをはじめとするライフサイエンスがその一部であることは間違いない。しかし、コンピュータとソフトウェアが深く関係している分野だけがイノベーション産業ではない。新しいアイデアと新しい製品を生み出していれば、その産業はイノベーション産業とみなせる。エンターテインメント、環境、マーケティング、金融サービスなども含まれる場合があるだろう。