新製品開発の究極コンセプトは“寝ながら美肌”

新発想でヒット商品となったが、当初は予算がほとんどなく、人手が足りないなかで製品化に向けた開発が進められた。それだけに開発に参加したメンバーには愛着もひとしお。会社にとっては嬉しい誤算だ。

新発想でヒット商品となったが、当初は予算がほとんどなく、人手が足りないなかで製品化に向けた開発が進められた。それだけに開発に参加したメンバーには愛着もひとしお。会社にとっては嬉しい誤算だ。

「最近、キレイになるヒマがない。」

昨年冬、こんな刺激的なコピーが書かれた車内広告があった。電車のドアに貼られた新製品の小さな広告だったが、思わずドキリとさせられた女性が多かったのではないだろうか。

仕事に、プライベートにと働く女性は忙しい。その分、肌の手入れに割く時間はどんどん少なくなっているという。それは、「これじゃマズイな」と思う女性がどんどん増えていることの裏返しでもある。広告のコピーは、その心理を見事に突いたものだった。しかも、刺激的なコピーより一回り小さな文字で、「寝ながらエステ」などとも書いてあるのだから、もう気になってしかたない。

多くの女性が、おそらく瞬時に反応したであろうその広告の新製品は、パナソニックのスチーム式美容器「ナイトスチーマー ナノケア」である。2008年11月に発売され、当初の販売目標を大きく上回ってヒット商品となった。

「寝ながらエステ」という言葉からも想像がつくが、ナイトスチーマーの基本コンセプトは「ながら美容」だ。これは07年3月ごろまでには、すでに固まっていた。製品開発の中心メンバーの一人、パナソニック電工ビューティ・ライフ事業部商品企画グループ課長の太田馨子さんがいう。

「これからの美容商品はどんな方向に進むべきか。06年4月から1年間、商品企画やデザイン、マーケティングなどの女子社員6~7名が集まって、週1回程度の割合でディスカッションを行ってきたんです。女性の社会進出が進んで、1日のうちで自分に投資できる時間には限りがある。美容にだけ時間を割くのはなかなか難しくなっています。美容商品も、ユーザーが何かをしながらできるものでなければ受け入れられないことはわかっていました。では、お風呂に入りながらか、朝食をとりながらなのか。いろいろなアイデアはあったのですが、やはり“寝ながら”だろうとなったのです」

もともとはデザイナーの太田さん。丸形デザインにはこだわりがある。
もともとはデザイナーの太田さん。丸形デザインにはこだわりがある。

通常、スチーマーは風呂上がりの肌を保湿するとき、あるいはクレンジングする前に、肌を柔らかくするためといった際に使うのが一般的なのだという。

すでにパナソニックには、テレビを観ながらでも使えるスチーマーがあった。それでもユーザーからは、「面倒だ」「使う時間がない」「手間がかかる」といった声が上がっていた。

また、マーケティング調査では、スチーマーについて、購入意欲はあるものの、ためらう三大理由として、(1)高価格、(2)効果があるのかわからない、(3)使い続ける自信がないとの結果が出ていた。

高価格はコストダウンで解決できる。効果については、「nanoe(ナノイー)」という、非常に保湿効果の高い超微細な水粒子を発生させる独自技術でクリアできる確証があった。

「使い続ける自信がないという理由を払拭させるにも、寝ながら使える仕組みにすればいいという結論にゆき着きました」(パナソニックウェルネスマーケティング本部商品グループビューティ・エイジケア商品チーム主事・山田詩織さん)

(的野弘路=撮影)