松本清張の代表作のひとつであり今なお、人々の心を捉える『砂の器』。作品の舞台と映画脚本を手がけた巨匠の思いを紹介する。

『砂の器』は15字詰めの新聞小説、5、6行だけを膨らませた映画です。

石川県の故郷を捨てた親子2人の乞食(物貰い)は、北陸街道から山陰路を経て奥出雲なのか、または京都大阪に出て、岡山、広島から奥出雲の亀かめ嵩だけに入ったのか……その旅は親子2人だけにしか分からない。

新聞連載の直前に原作者の松本清張さんから、脚本執筆を依頼されていたのですが、出来上がったものは、話が多くて長過ぎ、手に余るので「親子の旅」を焦点にと割り切ったのです。

映画にも登場する湯野神社。大ケヤキから続く参道は杉に囲まれ、古から続く荘厳な雰囲気を味わうことができる。鳥居の横には「砂の器」の石碑も(左)。「亀嵩」には古くからの集落が残る。町角に立つ地蔵(右)。
映画にも登場する湯野神社。大ケヤキから続く参道は杉に囲まれ、古から続く荘厳な雰囲気を味わうことができる。鳥居の横には「砂の器」の石碑も(左)。「亀嵩」には古くからの集落が残る。町角に立つ地蔵(右)。


 出雲へのシナリオハンティングの際、脚本を手伝ってくれる洋ちゃん(山田洋次氏)にそれを告げると、親と子の旅だけで一本の映画を? と首を傾げるので、

「出来ても出来なくても、そうするよりしょうがないよ」

出雲でのシナリオハンティングを終わり、東京へ帰ると、洋ちゃんと旅館に籠り、3週間ほどで書き上げました。シナリオはわりと簡単に出来上がったのです。