技術革新によって
新たな市場創出も

──世界の再エネ産業で、新たな技術革新によって市場が創出される領域はありますか。

【山家】再エネ市場には、これから本格的な開発に着手する、有望な分野もたくさんあります。期待しているのは風力です。すでに各国で普及していますが、機器の大型化はこれからです。そんな中、日本では1機7000キロワットの設備の開発を進めており、世界のトップランナーとして注目を集めています。日本特有の乱流、台風、雷などを克服できる設備なら、アジアモンスーン地域でも十分に展開できるでしょう。さらに、浮体式洋上風力は世界ではまだ珍しい技術。先日、福島沖で洋上風力発電設備が始動しました。

日本ではまだ注目度が低いですが、バイオ燃料の活用にも注目が集まっています。特に米国とブラジルでは、バイオ燃料の開発が1つの産業として成立しています。原油価格が高騰する中、エネルギーを自給する一手段として、今後は東南アジアやアフリカなどでも活用が進むと考えられます。

再エネはすでに世論
今後も加速度的に進む

──市民、または社会全体として再生可能エネルギーと上手に付き合うポイントなどがありますか。

【山家】再エネの最大の意義は、エネルギー自給率を上げることにあります。現在、エネルギー自給率は4%といわれていますが、もともと化石燃料がほとんどない日本では再エネが実質的に唯一の国産資源。「再エネの割合=自給率」なのです。エネルギーセキュリティーを確保し、自給率を上げるには、再エネの普及しかありません。再エネ活用はいまや世論になっています。

東日本大震災の後、日本人は懸命になって、節電に努めました。何の見返りもないのに、自主的にこうした行動を取る姿に、世界では驚きの声が上がっていました。日本人は、需要者であると同時に供給者でもある「プロシューマー」としての素質が、もともと備わっているのでしょう。

これらも踏まえて考えると、まず市民の立場としては、これまでのように政府や電力会社に任せきりではなく、エネルギーを地産地消する方法もあるのだという意識に目覚めてほしいと思っています。地域で多様な発電が可能になれば、やがて地域の電力会社も誕生するでしょう。そこに雇用が生まれ、地域への愛着を深めてくれるはずです。

社会全体では、まず「NIMBY」(Not In My Back Yard/設備の必要性は認めるが、自分の居住地には建てないでほしいという意識)から、受益する人々が負担を共有していく「コモンズ」へ、意識改革しなければなりません。さらに、今の再エネの盛り上がりが一過性のブームで終わらないよう、市場を育て、経済性を増していく努力が求められます。

再エネにも課題はあります。太陽光や風力、地熱、バイオマスなどを組み合わせることで、個々の弱みを克服し、強みを伸ばしていくことが可能になるのです。多様なエネルギーが実際に活用され始め、新たな資源と根付いていけば、再エネ市場の盛り上がりは今後ますます加速していくはずです。

エネルギーセキュリティーを確保し、自給率を上げるには、再エネの普及しかありません。

山家公雄●やまか・きみお
エネルギー戦略研究所所長
日本政策投資銀行参事
東北公益文科大学特任教授
1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。2004年環境・エネルギー部次長、調査部審議役などに就任。2009年より現職。融資、調査、海外業務などの経験をいかした環境・エネルギー政策の分析に定評がある。