人が集まって生み出す「趣味文化の博物館」

「鼓動はドキドキ、素敵なトキメキ」(コスプレイヤー=みるる、撮影=龍道)

JR秋葉原駅そばにあるラジオ会館1号館の1階には、毎日大勢の若者や外国人が集まっています。そこには1辺40cmの立方体の形をしたアクリル製の透明な箱が積み重ねられ、ぎっしりと並んでいます。箱の中には、フィギュアやゲームセンターの景品、アイドルグッズなどが展示されていて、展示品を眺める人たちの表情はみんな真剣です。

ここはレンタルショーケースと呼ばれる店舗で、商品を展示するショーケースの空間を個人に貸し出し、展示商品を委託販売します。リサイクルショップのように商品を買い取らないので在庫を抱えることはなく、個人の所有物が商品として販売されるので、蚤の市やフリーマーケットの店舗版といえます。

レンタルショーケースは、もともと手芸品やアクセサリーなど、手作り雑貨やアート作品をショーケースに入れて展示販売する店舗でした。その後、チョコエッグなどの食玩のコレクションや組み立て式フィギュアであるガレージキットが趣味として普及しだすと、ダブった食玩や不要になったフィギュアをショーケースにいれて委託販売を行うビジネスが2001年、秋葉原に登場しました。秋葉原最大手のレンタルショーケース専門店アストップは、2003年からラジオ会館1階で営業しています。

ショーケースのレンタルは月極めで、ショーケースの大きさや位置によっておおよそ1000円から6000円と料金が変わります。ちょうど目線ほどの高さになるショーケースは、とりわけ人目をひくので、レンタル料がもっとも高くなります。ただし、露出度が高い美少女フィギュアなど子ども向けではない商品は、子どもの眼が届かない高い位置に配置されるように店側の配慮があります。

出展者は商品の配置や値段を決め、店舗に販売を委託します。売り上げは15%程度の手数料が差し引かれ、月に一度、受け取ります。狭い空間ですが、秋葉原で自分のかつてのコレクションを披露したり販売したりできることから、秋葉原に通う趣味人のニーズにぴったり合い、2005年頃から新規出店が盛んになりました。フィギュアやゲームセンターの景品などを集めた店舗が多い中、鉄道模型やトレーディングカードに特化して商品をそろえるなど、独自性を持つ店舗も登場しています。

たとえば、秋葉原ラジオセンター2階にある山本無線e-BOX店では、フィギュアなどの委託は受け付けず、年代物の無線機やカメラやラジオ、真空管や古銭など、昭和育ちの人たちに懐かしさを感じさせる商品が並んでいます。私自身も小学生の時に愛用していたBCL(海外の国際放送を聴いて楽しむ趣味)用の短波ラジオも置いてあるので、展示商品を眺めているだけで心が弾みます。店舗主が参考例として展示しているショーケースには、1979年に発売された初代ウォークマンもあります。

秋葉原のレンタルショーケースは、まさに趣味文化の博物館です。レンタルショーケースのウィンドーショッピングを楽しむために秋葉原に訪れる人たちもいます。今やレンタルショーケースは、秋葉原の観光資源のひとつなのです。