脱サラ農家、危険な介護職、まだまだ安泰な弁護士……混迷する日本でも通用する仕事のカタチを徹底ルポで大検証!

 「前職はトラック運転手だったけれど、タクシーは完全に歩合給だからね。こっちのほうが仕事はツラいね。国土交通省がもう一度台数制限をやったみたいだし、リーマンショックの後しばらくしてから一瞬だけ景気がよくなった気がしたけど、最近ではさっぱりお客さんが乗らなくなったね」

中年のタクシー運転手の逢坂健太さん(仮名)。タクシー運転手の給与は、売上金額の約半分程度とされているケースが多い。

「月の売り上げは平均すれば40万円くらいかな、本当に稼いでいる人は100万円近く売り上げているけれど、それは本当にひと握りの人たち。ほとんどの運転手は厳しい給料状態のままですね」

タクシーの窓の外には「空車」の赤い表示が付いているタクシーの行列が視界に入ってきた。車を走らせてもお客さんは乗らず、タクシーを回し続ける時間だけが空しく経過していく。タクシー運転手の憂欝はまだまだ続きそうだ。

高学歴者であったとしても、一度就職の波に乗れないと悲惨な状況になることに変わりはない。東大大学院修了(文系)という輝かしい経歴を持つ鈴木学さん(仮名)もその一人だ。就職氷河期時代に就職を逃した彼は典型的なロストジェネレーション(失われた世代)であり、大学院への進学を選択した。そこで、再び大学院修了後に就職活動に挑戦したが、あえなく失敗。日本では新卒採用を逃すと、大手企業での就職はほぼ不可能となる。その結果として、高学歴者は予備校や学習塾などの講師に流れていくケースも少なくない。

「時給は集団授業だと2500円、個別指導など1200円くらい。しかし、生徒からの質問対応などの給料に反映されない部分までのケアを考えると、時給換算では割に合わないのが実態です」

彼の月収は10万円ちょっと。日に3~4コマの授業を3日間以上こなす。

「大手予備校とは違って、学習塾での授業単価は横並び、昇給しても数十円という単位でしかありません。季節講習などのまとまった収入が得られる時期以外だと、給料総額を上げるためにはひたすら授業のコマ数をこなすしかないのです。文系科目は授業のコマ数も多いが、受け持つ教員数も多い。そのため、コマ数を増やすためには、生徒からの評判だけではなく、コマの割り振りをしている人事担当者との関係が重要になります。できるだけ人事担当者と顔を合わせていい印象を持ってもらえるようにしています」

どこの世界であったとしても人間関係が重要なことはいうまでもないが、塾講師の世界も限られたパイを巡って競争が激化しているようだ。

※すべて雑誌掲載当時

(小原孝博、小倉和徳=撮影 編集協力=佐藤ゆみ)