物価が上昇の兆しを見せ、一部には持ち直しの動きも見られる日本経済。回復に向かおうとする経済の動きを、個人の資産形成に生かすには、どのような投資戦術が求められるのか。ファイナンシャル・プランナーの横山利香氏に、これから資産を守り、育てるための方法を聞いた。

Q 安倍政権の経済政策、いわゆるアベノミクスに基づく成長戦略が打ち出され、個人投資家の運用環境はどのように変化しているのでしょうか?

A 資産運用にインフレの効果を取り込んでいくことが重要に。

【横山】株式市場には景気回復に向けた強い期待感が生まれています。日本株の値上がり期待から外国人投資家の市場参加者が増加しているほか、一部上場企業で従業員の定期昇給や賞与を増額する動きが相次いだのは、記憶に新しいところでしょう。一連の施策が実体経済に影響を及ぼすのはもう少し先になるかと思いますが、景気回復の足音が迫っているのは間違いなさそうです。長引く株式市場の低迷や円の高止まりといった状況を見て投資を足踏みしていた方にとっては、資産運用を始めるのに最適な時期といえるかもしれません。

景気回復の動きに伴い、物の値段はゆるやかに上がり始め、アベノミクスで標榜するインフレは次第に具現化しています。原油や小麦、乳製品……普段の買い物やニュースでも、値上げに関する情報を見聞きする機会が増えているのではないでしょうか。物価上昇のマイナスの効果が強調されがちですが、インフレがもたらすのはデメリットばかりではありません。デフレ一辺倒だった時代とは異なり、価値のある物にはきちんとした対価が支払われます。消費者の出費はかさみますが、企業を見れば給与アップや設備投資の増加など経済全体を底上げする効果をもたらすでしょう。

肝心なのは、個人投資家も景気サイクルに応じて変化できているか、ということです。デフレ経済では円で現預金を保有するのが最善の選択だったかもしれませんが、これからインフレによって引き起こされる成長の恩恵を享受するには、景気に応じて変動しやすい株式や不動産などをある程度組み入れたほうが有利といえるでしょう。景気サイクルの変動状況を見極め、それに対応する柔軟な視点を忘れないようにしたいですね。