※本稿は、服部正策『奄美でハブを40年研究してきました。』(新潮社)の一部を再編集したものです。
ガイドラインには書いていない「ハブ毒への対処法」
そうはいっても咬まれてしまうかもと心配する人もいるはずだ。「咬まれちゃった、どうしよう」とパニックになるのを避けるためにも、本土から奄美に遊びに行く前の心構えとして、「咬まれたときのマニュアル」を知っておきたい人もいるだろう。
まず、医学生が教わる標準的な緊急搬送のガイドラインによると、毒蛇の応急手当は一括りにされている。
咬まれたら何もせずに体を温めて病院に行け。
なぜ体を温めるか。これは凍死したらいけないかららしいのだが、奄美では全く参考にならない。なにせ年間の平均気温は20度を超えるのだ。奄美で凍死する可能性は北極で熱中症に罹る可能性より低い。
そして、ここまで読んでくれたあなたはおわかりのように、毒蛇といってもいろいろな種類がある。毒の成分も、咬まれたときの危険度も違えば対処法も異なる。治療法についても、ガイドラインでは毒蛇に合った血清を打てとしか書いていない。
だから、あなたがハブに咬まれ、その場に標準的な医学生が居合わせたら、何もせずに体を温められ、病院に搬送される。奄美であろうと同じだ。そして、病院でハブに詳しくない医者に診察されたら、ハブに対して万能薬とは言えない血清を打たれるだけだ。
「奄美のお医者さんはみんな詳しいでしょ」と思われるだろうが、そんなことはない。医者が最初の診察を誤ったばかりに後遺症に苦しんだ例は少なくない。
焦らず、慌てず、吸い出す
それでは、経験の乏しい医者におかしな治療をされないためにあなたはどうすべきか。
ハブの毒性を覚えているだろうか。ハブの毒は成分が複雑で量も多い。入った毒を全て血清で中和はできない。
だから、まず、毒量を減らす必要がある。とりあえず、洗って吸い出すに限る。腫れてきたら、患部がパンパンになって毒液を外に出すのが難しくなるので、「あっ、咬まれた!」と思ったら、焦らず慌てず、吸い出す。それから119番に電話する。
病院に運ばれても、ハブ治療に詳しい医者は同じ対応をするはずだ。咬まれたところを切開して、毒を洗い出して、血清を注射する。後は自然治癒に任せるしかない。最初の数日は患部が腫れて痛いが、1週間程度で日常生活に支障はなくなる。
治療が遅れれば遅れるほど、ハブ毒が作用して回復にも時間がかかる。
最近は治療法も普及してきているが、毒を洗い出さない医者も未だにいる。