なぜ日本は国際社会で存在感を発揮できないのか。日本人で初めての国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんは「日本の教育は均質になることに重きを置き過ぎていて、リーダーシップを育成できていない」と指摘した。著書『私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築』(朝日文庫)より、一部を紹介する――。
緒方貞子さん
写真提供=朝日新聞出版
1991年から2000年まで国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さん

好奇心が仕事で成長する鍵となる

人間は仕事を通して成長していかなければなりません。その鍵となるのは好奇心です。常に問題を求め、積極的に疑問を出していく心と頭が必要なのです。仕事の環境に文句を言う人はたくさんいますが、開かれた頭で何かを求めていく姿勢がなければなりません。

私が国連難民高等弁務官に就任し、組織改革と職員の能力向上プログラムに取り組んでから6年半になります(※)。私は国連機関をサービス機関だと考えています。世界に対してサービスを提供するのが役割ですから、役に立つサービスをしなければ存在意義はありません。

※編集部註:1997年当時

私が心がけているのは、現場事務所の裁量を増やすことです。任せられる裁量の大きさが仕事への動機づけになるからです。それが自ら問題設定をして取り組む姿勢につながります。

「座っているだけ」という姿勢はたたき直す

裁量が少ないということは責任も少ないということで、そうなると職員は現場ではなくジュネーブの本部の方を向いて仕事をするようになります。なかには外交官気取りで、首都の事務所にどっかりと腰をおろしているだけの職員がいますが、そういう姿勢はたたき直そうというのが私の方針です。

若い職員には必ず現場に出てもらいます。ジュネーブにずっといたい、という希望は基本的に聞き入れられないし、そういう人物は採用しない。危機的状況下で決断を繰り返す経験が必要だからです。

国際機関で働きたいと思っている人だけでなく、日本のあらゆる若い世代に、「何でもみてやろう」「何でもしてやろう」という姿勢を意識的に持ってもらいたいと思います。冒頭で、疑問を出していく心と頭が必要だと述べましたが、日本人は答えはきっちりと出すが、問題を出してこないという欠陥があるように思われます。