なぜゴキブリは頭が潰れても死なないのか。静岡大学農学部の稲垣栄洋教授は「ゴキブリの体は、人間のように大きな脳が情報を処理するのではなく、複数の小さな脳や神経中枢を体の節目に分散させている。体を動かす命令系統が分散しているため、頭を潰したぐらいでは動きを止めない」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、稲垣栄洋『ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(ちくまプリマー新書)の第4章(「こまった」生き物)を再編集したものです。

ゴミ捨て場に集まるゴミムシは、ゴミを食べない

①ミイデラゴミムシ

ゴミムシとは、ひどい名前をつけられたものだ。

ゴミムシは、ゴミ捨て場に集まることから名付けられた。中でも、「へっぴり虫」や「へこき虫」と呼ばれているゴミムシがいる。その名のとおり、臭いをこくから「へこき虫」なのだ。

床にいる虫のイメージ
写真=iStock.com/jennifer.sche
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実際に、へこき虫は、屁をこくのだから、そう呼ばれても仕方がない。神さまはどうして、こんなぞんざいに扱われる生き物をお創りになったのだろう。

ゴミ捨て場に集まるゴミムシだが、じつはゴミを食べているわけではない。ゴミを食べに来た昆虫をエサにしているのだ。ゴミムシは肉食の昆虫なのである。

肉食性のゴミムシは、害虫も食べてくれる。そのため、ヨーロッパでは畑の害虫を退治するために、畑の中にゴミムシのすみかになる緑地を設けることがある。これはビートルバンクと呼ばれている。ビートルバンクは「ゴミムシの銀行」という意味だ。ゴミムシは、人間の役に立つ益虫だったのである。

ゴミムシの中には飛ばない種類が多い。ゴミムシは、前翅ぜんしが身を守るために堅くなっ
ている。そして、後翅はその中で退化してしまっているのである。

ゴミムシはその代わり、すばやく走る能力を身につけている。他章でも述べたが、多くの昆虫は飛ぶことができるが、飛ぶためにはエネルギーを必要とする。そのため、飛ぶことをやめれば、その分のエネルギーで、よりたくさんの卵を残すことができる。

強烈な「おなら」で身を守る

飛んで移動したほうが良いのか、飛ぶのをあきらめてたくさんの卵を残した方がいいのか、昆虫の成功には常にこのジレンマがつきまとう。

多くの昆虫は飛んで移動することを選んでいる。しかし飛ばないゴミムシは、飛ばないことを選んでいる。飛ぶのをあきらめるというのは、かなりの勇気だ。

ゴミムシの中には、身を守るために、臭い汁を出すものがある。中でも見事なのが、ミイデラゴミムシである。ミイデラゴミムシは、つかまりそうになると、お尻からポンと大きな音を立てて、ガスを噴き出す。このようすが、おならをしているようなので、「へっぴり虫」や「へこき虫」と呼ばれているのである。