夜中、自分が寝ている部屋の向かいにクマが入ってきた
魔物が跋扈する時分と恐れられてきた「草木も眠る丑三つ時」、漆黒の闇に紛れてある生き物が民家に現れた。午前2時半すぎ、1階寝室にいた住人の女性が不気味な物音に気づき、目を覚ました。廊下を挟んで向かいにある居間からガタガタ、ゴソゴソ。フガフガと荒い鼻息も聞こえてくる。ただならぬ気配を感じ、恐る恐る忍び寄ってドアを少し開けて中をのぞき込むと、数歩先に真っ黒な塊が……。そこにいたのは泥棒ではなく、体長1メートルほどのクマだった。
8月30日、秋田県潟上市で家人の就寝中にクマが家の中を物色するという侵入盗さながらの事案があった。窓を閉めきっていない場所を見つけて網戸を破って踏み入り、食べ物を探した後、再び網戸から去って行った。女性は居間のドアをそっと閉めて夫と共に2階へ避難し、おびえながらやりすごした。居間の床にはテーブルに置いてあった調味料が落ちていたという。
これまでクマが建物に入り込むことはめったになかった。ところが今年は違う。枚挙にいとまがない。しかも執拗かつ大胆だ。
車庫でクマと鉢合わせし尻を引っかかれたという事件も
秋田名物きりたんぽの本場として知られる大館市では、住宅街の小屋のシャッターがこじ開けられ、保管していた玄米が食い荒らされた。少し離れた場所にある倉庫でも、チェーンを巻いて施錠していたのに鍵が壊されて玄米やもち米が食べられた。「マタギ発祥の地」と言われる北秋田市の民家では、住人の女性が車庫に入った際にクマと鉢合わせし、手にかみつかれて尻を引っかかれた。美郷町では畳店にクマ3頭が入り込み、丸一日とどまった。
ちまたではクマの話題で持ちきりだ。いまや玄関から一歩外へ出るにもクマがいないか警戒しなければならず、かつてない異常事態に直面している。佐竹敬久知事は10月16日に記者会見で「いつでも、どこでも、誰でもクマに遭遇するリスクがある」と警鐘を鳴らしたものの、クマに襲われて負傷する事故は後を絶たず、騒動は当分収まりそうにない。
秋田県によると、県内で発生したクマによる人身被害は10月19日現在、45件52人に上り、記録の残る年度以降で最多を更新し続けている。一昨年の12件12人、昨年の6件6人と比べると、いかに急増したかが分かる。