これまでは「前に抱えて」が常套句だった

関西の鉄道事業者19社局が展開中の共同マナーキャンペーンが興味深いと担当編集者が教えてくれた。「手荷物の持ち方・置き方は、まわりの方にご配慮ください」とした上で、具体的には「大きな荷物は網棚に」「リュックは手に持って」「手荷物はヒザの上に」と呼び掛けているのだという。

当たり前のことではないか、何が興味深いのかと思われるかもしれないが、これまでの手荷物に関するマナーキャンペーンは「リュックサックは前に抱える」が常套句だった。それが今回、その文言を一切使っていないのである。

地下鉄の車両内でリュックサックを前に抱えている男性
写真=iStock.com/Blue Planet Studio
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同じく関西各社が2018年3月に行った共同マナーキャンペーンは、「そのリュックサック迷惑な技かけてない?」として、「車内でのリュックサックは、前に抱えるか網棚の上に置く」よう呼びかけていた。関東においても駅員や車掌の肉声放送、一部事業者では自動放送で同様の表現を用いている。

なぜ5年で文言が変わったのか。キャンペーンを取りまとめる関西鉄道協会に話を聞くと、「過去は前に抱えてという表現も使っていたが、身体的な理由など、何かしらそれができない人がおり、前に抱えられない人はどうしたらいいかと指摘されることがあった」という。

東京メトロでは「迷惑な人」の描写に変化が

そこで問題の本質は「背負ったままでは迷惑」と整理し、「前に抱えることばかり注目されるが、まずは背負っている荷物を肩からいったん外して手に持つ、網棚に乗せる」ことを訴えることにしたという。なるほど「関西人の合理性」が背景にあるようだ。

関東のマナーキャンペーンはどうなっているのか。各社のウェブサイトを眺めていたら、鉄道事業者のマナーキャンペーンでは最も有名かつ長い歴史を持ち、かつ筆者の古巣でもある東京メトロのマナーポスターが目に留まった。

東京メトロは2015年以降、毎年1度は車内の手荷物マナーを題材にしたポスターを制作している。2015年8月のポスターを見ると、どのように持つべきか明言されていないものの、リュックを前に抱える人と網棚の上の荷物がイラストで描かれている。

続く2016年、2017年のポスターは荷物を背負ったままの「迷惑な人」が描かれているが、周囲への気づかいを促すのみで具体策に触れていない。2018年5月のポスターは3年ぶりにリュックを前に抱える人のイラストが描かれている。

ところがこれ以降、描写は変化する。2019年5月、2020年7月のポスターは手荷物を網棚の上に乗せる人と手に持つ人を描き、2021年5月と2022年5月は同様のイラストに大きな荷物は足元に持つか荷棚に上げるとの文言を添えている。

(左)2015年8月のマナーポスター/(右)2018年5月のマナーポスター
(左)2015年8月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより)/(右)2018年5月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより
(左)2021年5月のマナーポスター/(右)2022年5月のマナーポスター
(左)2021年5月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより)/(右)2022年5月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより)