1980年代後半、日本の半導体は世界シェア1位だった。現在、そのシェアは10%程度まで落ち込み、最先端技術といわれる2ナノレベルの半導体を生産する技術もない。なぜ日本の半導体産業は凋落したのか。ここから挽回する方法はあるのか。経済産業省で半導体政策を取り仕切る野原諭・商務情報政策局長に聞いた――。
野原商務情報政策局長
撮影=桜井修
野原商務情報政策局長

台湾有事が起きたら世界の産業はどうなるのか

――なぜ今、経産省は半導体に力を入れているのですか。

【野原】現在、半導体は国民生活上、必要不可欠なものになっています。

タブレットやスマートフォン、EVなどの先端技術を駆使した機器はもちろん、家電などほとんどの電子機器に使われています。半導体不足が起きると、途端に日本の経済活動全体に支障が生じます。

そこで半導体を国民生活、国民経済活動を支えるための不可欠な物資、つまり「戦略物資」と捉え、安定供給を図るという観点から日本政府、経済産業省として政策を考えています。

さらに視野を広げると、経済安全保障の観点もあります。

アメリカは以前より、半導体政策を経済的側面からだけでなく、安全保障と密接にかかわるものとしてとらえていました。特にトランプ大統領就任から始まった米中対立の中では、半導体にスポットが当たることになりました。

現在、世界の半導体受託製造分野の65%以上を台湾が占めてしています。台湾有事も指摘される中、自国内に生産拠点を持たない国は、何かあれば半導体を通常通り手に入れることが難しくなります。

国民生活に必要不可欠な半導体の安定供給の維持は、やはり民間ではなく政府の仕事、責任だろうということで、国産での先端半導体製造を目指すラピダスの新設や台湾のTSMCの誘致など、半導体の確保を進めています。

かつて世界一だった日本の半導体産業

――なぜ日本の半導体産業は世界シェアを失ってしまったのでしょうか。

【野原】1980年代、日本の半導体産業は50%を超える世界シェアを持っていましたが、現在は10%程度で、最先端技術といわれる2ナノレベルの半導体を生産する技術はありません。

なぜここまで凋落してしまったか。それにはいくつかの理由があると思っています。