「2島決着」の方針が回顧録で明かされた

昨年7月凶弾に倒れた故安倍晋三元首相の未公開の肉声を収録した話題のベストセラー、『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)は、ウクライナ侵攻を進めるロシアでも話題で、ネット上に内容紹介やコメントが次々掲載されている。安倍氏が明かすプーチン大統領との日露交渉の内幕には、ロシア側も興味津々のようだ。

衆院予算委員会で質問する立憲民主党の米山隆一氏(中央)=2023年2月13日午後、国会内
写真=時事通信フォト
衆院予算委員会で質問する立憲民主党の米山隆一氏(中央)=2023年2月13日午後、国会内

安倍氏はこの中で、首脳交渉で最大の謎だった2018年11月のシンガポールでの首脳会談の内容を公表し、北方領土問題で1956年日ソ共同宣言に基づく歯舞・色丹両島の引き渡しによる「2島決着」に舵を切ったことを公然と認めた。国是の「4島」路線に戻りつつある岸田文雄首相の方針とは異なり、将来の日露交渉の足枷となる可能性がある。

「米国の意向に逆らった異例の首相」

読売新聞記者らがまとめた回顧録は、「内容があまりに機微に触れるため、(安倍氏が)出版を躊躇した」(まえがき)とされるほど生々しい証言が多い。ロシアでは、タス通信やRIAノーボスチ通信が要旨を報道すると、各メディアが追随した。

ロシアのテレビメディア「Vesti.ru」は、「プーチンはクールな感じに見えるけれど、意外にきさくで、ブラックジョークもよく言う」という安倍氏のプーチン評を伝えた。

有力メディア「RBK」も、中国の習近平国家主席が安倍氏に、「自分が米国に生まれていたら、米国の共産党には入らないだろう。民主党か共和党に入党する」と語ったことを伝え、「世界のリーダー評がユニーク」と指摘した。

右派系の「Regnum通信」は、安倍氏が北方領土問題について、「4島を一括返還しろという主張はいつだってできます。そう言えば、ロシアは反発し、交渉は終わる」「本気で返還を実現しようとするなら、向こうが関心を示す案を示さねばならない」として「2島」に譲歩したことを取り上げ、現実的な思考と指摘した。

国営「ロシア新聞」の電子版は、安倍氏がロシアによるクリミア併合後、オバマ米大統領の反対を押し切って訪露した経緯を取り上げ、日本の首脳が米国の意向に逆らうのは異例だと強調。「安倍氏は2016年にソチを訪れ、8項目の経済協力案を提示するなど、その後数年間の関係発展の基礎を築いた」と称えた。