原発を止めた独は、電気料金が仏の倍に
田中角栄がつくった法律のリストを眺めてみると、これまで紹介した日本列島改造計画と道路のほか、エネルギーにも大きな関心を持っていたことがわかる。彼のふるさと新潟県の開発や、地方と都市部の格差解消が法律を次々につくりあげた動機であったことは間違いないだろう。そして、日本の発展には道路とともにエネルギーが必要不可欠だったのである。
角栄が1952年につくった法律「電源開発促進法」の第一条には「すみやかに電源の開発及び送電変電施設の整備を行うことにより、電気の供給を増加し、もつてわが国産業の振興及び発展に寄与することを目的とする」と書かれている。この法律は、2003年に廃止されるまで日本のエネルギー開発の根拠となり、日本の経済大国への道を切り開いたといえる。その後、11年の福島第一原発事故以来、世界中で「脱原発」が叫ばれ、地球温暖化対策の名のもとに、再生可能エネルギーがもてはやされるようになった。
しかし、いち早く脱原発に着手し、再生可能エネルギー先進国といわれるドイツでは、「エネルギー転換による国民一人当たりの負担は、2016年から25年では、月37.5ユーロ(4800円余)になる」「(ドイツの)電気代は、すでにEU平均の50%増、フランスの2倍」(現代ビジネス・川口マーン惠美氏「ドイツの『エネルギー転換』が大失敗だったと明らかに」)だという。
日本の場合、太陽光や風力など再生可能エネルギーの固定価格買取制度によって、家庭の負担額は年9504円(1カ月の電気使用量が300キロワット時)高くなった。
面白いのは、今年の8月1日から関西電力が電気代を下げたことだ。家庭の負担額は年2725円(1カ月の電気使用量が300キロワット時)安くなる。今回の値下げは、福井県の高浜原子力発電所3号機・4号機の運転再開によって実現した。
やはり自然エネルギーや石炭火力発電、火力発電は、コストがかかりすぎる。世界的な潮流になりつつある環境に優しい電気自動車を、日本でも全面的に普及させたいのであれば、ますます安価な電気が必要となるはずだ。40年までにガソリン車の販売を禁止する決定を下したフランスは、原発大国であり安価で安定した電気の供給がされている。今、日本のエネルギー政策は今世紀最大の岐路に立っているのである。こんなときこそ、角栄の知恵を学びたいものである。