豊かな老後を迎えるためにはいつから準備しておけばいいのか。ファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さんは「豊かな70代を迎えるには、50代でやっておかなければいけないことがある。それは食費や光熱費の節約などネガティブなものではなく、ポジティブな作業だ」という――。

※本稿は、井戸美枝『ゼロ活 お金を使い切り、豊かに生きる!』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

書類に記入するシニアカップル
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豊かな70代を迎えるために50代でしておくこと

50代からの自分の人生にとって、より大事なものにお金を使うという姿勢が大事です。そのうえで避けて通れないのが、「どこにお金を使い、どこに使わないか」を明確にすること。

自分のお金を少しでも有効活用するために、50代を過ぎたら暮らしのダウンサイジングを考えていきましょう。家計のダウンサイジングとは、生活費や支出を見直し、全体的な生活水準を適切に縮小・再設計することを指します。具体的には、収入に見合った生活を送り、無駄を省き、経済的に持続可能なライフスタイルに切り替えること。

そういわれると、真っ先に節約生活をイメージして、楽しみを我慢するようなネガティブな気持ちになる方が多いかもしれません。しかし、それは誤解です。ダウンサイジングとは生活を快適に楽しむために、無駄な出費を減らして必要なところにしっかりお金をかける流れをつくるという非常にポジティブな作業です。

食費や光熱費は節約しないほうがいい

特に、よく老後生活についての相談を受けると、「すでにもう無駄を省けるところなんてないんです」とおっしゃる方がいます。本当にそうでしょうか? もちろん食費や光熱費といった日々の生活費をギリギリまで削ろうとすると、健康を害してしまいかねませんし、生活の質も下がってしまいます。

食べることは、心と体の健康を支える大切な楽しみでもありますから、むしろ質のいい食材やちょっと贅沢なお惣菜など、楽しむための支出を削るのは避けたいところです。老後生活は急に始まるものではありません。50代からの生活が脈々と続いていくものなのですから、食生活を急に変えるのは難しいものです。

最も考えたい「固定費」の見直し

それでは、どこから生活費を見直すかといえば、まずは「固定費」です。固定費は一度見直すと、効果がありほかの支出を気にする必要がなくなるから気持ちが楽です。特に、住まいの見直しは重要です。

シニア世代にとって最もお金がかかるのは住居費です。住まいを見直すだけで、無駄なお金が大きく節約できる可能性があります。今となっては広すぎる家や庭の手入れが大変な一軒家を維持するよりも、便利なマンションに住み替えれば住宅ローンや維持費、固定資産税を軽減できます。駅に近く病院や買い物施設が徒歩圏内にある場所に移れば、車を手放すこともできます。

実際、70歳を過ぎると運転が不安になる方も多く、免許返納も視野に入ります。さらに、車の維持費や保険料の負担も必要かどうか考えておきましょう。そのほか、保険料、スマートフォン代など、毎月なんとなく払い続けている固定費をじっくり見直してみてください。これらは一度見直すと、節約効果が長く続くため、家計にとって大きなメリットになります。

スマートフォンを使う人
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生命保険やスマホのプランも見直しが必要

生命保険料も固定費です。加入している内容が今の家族の状況に合っているのかを見直します(詳しくは後述)。スマートフォンの契約プランや通信費もぜひ見直してみてください。何年も前に契約したままの高額なプランをそのまま使い続けていませんか? 使わない特約サービスをつけていませんか? そうしたプランを変更するだけでも、月々数千円から1万円近く節約できるケースもあります。

定期購入やサブスクリプションサービス、キャンペーンなどにつられてつい、買ってしまうのも考えものです。特に定期購入やサブスクリプションサービスは、最初の時点ではお得に感じるかもしれませんが、結局使わなくなって無駄に払い続けたりしてしまうもの。私は、雑誌読み放題のサブスクを契約したのに、まったく読まなかったという経験があります。

定期的に送られてくる生活用品や食材の場合はどんどん家にストックがたまっていってしまって、余らせてしまうこともあります。「お得」な情報は、あなたにとって本当に得なのかどうか判断するようにしましょう。

支出を上手に見直せば、無理に節約をしなくてもお金に余裕ができて、旅行や趣味の活動、習い事、友人との交流など、人生を豊かにしてくれる楽しみを今以上に増やせるようになります。

定年が近づいたら加入している保険の内容を確認

家計のダウンサイジングには、保険の見直しが重要です。50代以降、特に定年が近づいてきたら、今、加入している保険の内容は合っているかを確認しましょう。若いころには「いざというときの備え」として必要な内容でしたが、年齢を重ねるといざというときの必要保障額はもっと少なくて済むのでは?

生命保険文化センターの「2024(令和6)年度生命保険に関する全国実態調査〈速報版〉」によれば、1世帯が年間に払っている保険料の平均は約35万3000円。毎月約2万9400円です。とりわけ50代後半になると、この金額はさらに上がって年間約40万7000円、月額3万3900円にもなります。

何のための保障に年間数十万円もの保険料を支払っているのでしょう。必要な保障内容は、家族構成や資産額などによっても変わっていきます。保険料は毎月の固定費です。定年を迎えると、多くの人は収入が減少します。年金生活になれば、現役時代ほど収入に余裕はなくなりますよね。そんなときに見直すべき家計の支出項目が、保険なのです。

「減らしていい保障」と「最低限必要な保障」をはっきり区別する

保険に入ると多くの方が加入したときのままで保険料を支払っているケースが多いです。見直していないのは、自身が加入している保険内容が詳しくわからないからという方が多いようです。

すべての保険証券などを見て、何のためにどのくらいの保障に加入しているか? 会社で入っていた団体保険は? 家族の保険は? 特約は? 世帯で整理してみましょう。今の必要な保障だけを残し、保険料をスリムにすることが大切です。

ここで大事なのは、「減らしていい保障」と「最低限必要な保障」をはっきり区別すること。何もかも解約してしまうと、いざというときに困ることになります。

では、どんな保障を減らしていけばいいのでしょうか。50代を過ぎたなら必要ない保障は「死亡保険」でしょう。生命保険(死亡保険)の本来の目的は、遺された家族の生活を支えること。子どもが自立して経済的な責任がなくなったあとも必要でしょうか? 貯蓄がある程度あれば、生命保険はなくてもいいかもしれません。

医療保険やがん保険も見直してみよう

医療保険やがん保険についても、貯蓄にある程度余裕があってさほど保険に頼る必要のない方であれば見直しをしてもいいでしょう。

「歳を取ったら医療費が増えるから保険が必要」と思われがちですが、日本には、「後期高齢者医療制度」という手厚い公的な保障があります。実際、高齢になれば自己負担の上限も収入に応じて定められているため、医療費のリスクはそれほど高くありません。

入院時の差額ベッド代や先進医療の費用は自己負担になりますが、これらの費用はある程度貯蓄からまかなえる程度に抑え、保険はシンプルな掛け捨てタイプを選ぶほうが効率的です。

実は、保険の加入に、正解はありません。保険はいざというときに心配だから保障を厚くしたいなどの気持ちは人それぞれだからです。あるいは、本人はがん保険はいらない、多くの治療や差額ベッドがかかる入院は希望しないとしても、家族ができるだけのことはしたいので保険に入りたいといったケースもあります。しかし、「保障内容を充実させるほど、保険料は高くなり、手元に残る現金が減る」ということです。保険料は長く支払うことが多く、月々の負担はそれほど大きくなくても、積み重なれば大きな負担になります。`

特に収入が限られている老後の生活においては、家計を少しでもスリムにし、手元のお金を自由に使えるようにしておくことが重要なのです。

50代を過ぎても続けるべき保険は?

保険は、事故が起こった場合、リカバリーできないこと、今後の予定が大きく変わってしまうのをカバーするためにあります。絶対加入しておかないといけない保険は「自動車保険」と「火災・地震保険」です。

順番に説明していきましょう。自動車保険は、自動車を運転するなら自賠責保険だけでは絶対に不十分です。自賠責保険は人身事故のみで、支払われる金額にも死亡は3000万円、傷害は120万円など補償限度額は少ないです。相手に大きな怪我を負わせたり、事故で他人の車や家屋を破損させたりした場合には高額な賠償金が必要になります。必ず、「対人・対物賠償」が十分な補償額の保険に入りましょう。

井戸美枝『ゼロ活 お金を使い切り、豊かに生きる!』(扶桑社)
井戸美枝『ゼロ活 お金を使い切り、豊かに生きる!』(扶桑社)

車両保険については、自動車が浸水被害を受けたり、豪雪で事故を起こしたりする可能性も考慮し、必要な範囲だけ付けておくと安心です。

火災保険と地震保険にも継続して加入しましょう。特に火災保険は、火災だけでなく自然災害全般にも備えられる住宅総合タイプがおすすめです。最近は豪雨災害などが増えていますから、自宅の地域のリスクを考えて「水災」の補償が付いたタイプを選ぶといいでしょう。補償内容も確認しておきたいです。

また、地震保険は火災保険とセットでなければ加入できないものが、ほとんど。日本は地震大国ですので必ずセットで加入を。保険料は高めですが、万一のときの被害が大きすぎるため、ここは節約しないでくださいね。