なぜ嵐は唯一無二なアイドルと言えるのか
今月7日、嵐が来年5月での活動終了を発表した。実質的な解散とみなされる。1999年のメジャーデビューから25年余り。活動休止期間もあったが、「国民的アイドル」としての地位にあり続けた。だが「国民的」とはどのような意味でそう言えるのか? 「普通以上に普通」をキーワードに、唯一無二なアイドルとしての嵐について考えてみたい。
2010年代、間違いなく嵐はテレビのど真ん中にいた。
2015年の年末から2016年の年始、テレビ番組出演本数ランキングの1位から5位を嵐のメンバー5人で独占。1位の二宮和也の32本を筆頭に、他のメンバーもすべて20本以上の出演。20本を超えたのは、この5人しかいない。並み居る人気芸人を抑えたかたちである(株式会社エム・データ調べ)。
むろん音楽番組での活躍があった。『NHK紅白歌合戦』では2010年から5年連続で嵐として司会(グループでの司会は史上初だった)を務め、そして2014年には初のトリに。紛れもなく『紅白』の中心だった。
グループの冠バラエティ番組も好調だった。当時、夜7時台から10時台のプライムタイムに『VS嵐』(フジテレビ系、2008~2020年)、『嵐にしやがれ』(日本テレビ系、2010~2020年)と冠番組を2つ持っていたのは、旧ジャニーズ勢のなかで嵐だけだった。
なぜここまで嵐はテレビで際立った活躍ができたのか? グループの成り立ちから紐解いていこう。
ジュニア発のグループの意味
嵐の結成は1999年。当時、バレーボールの世界大会のイメージソングでデビューするのが旧ジャニーズの恒例になっていた。V6などは有名だろう。嵐もそのうちの一組だった。
お披露目はハワイの海上、豪華クルーズ船での記者会見という華々しいものだった。そして同年11月に「A・RA・SHI」でデビュー。当時アイドルではまだ珍しかったラップをふんだんに盛り込んだ同曲は、初動売上で55万枚を超えるヒットとなった。
嵐というグループを知るうえで重要なのは、その頃同時に巻き起こっていた「ジャニーズJr.黄金期」のブームである。
まだメジャーデビュー前の存在であるジャニーズJr.が、東京ドームでコンサートを開催するなど前代未聞とも言える爆発的な人気を獲得。さらに『8時だJ』(テレビ朝日系、1998年放送開始)などゴールデンタイムの冠番組まで持っていた。そこには、タッキーこと滝沢秀明をリーダー格に、今井翼、山下智久、生田斗真、風間俊介、後の関ジャニ∞(現・SUPER EIGHT)のメンバー、そして嵐のメンバーとなる5人など錚々たる面々が顔を連ねていた。
この黄金期には、単なる一過性のブーム以上の意味があった。
それまでは、熱心なファン以外にJr.の存在を詳しく知るひとなどほとんどいなかっただろう。
SMAPとの違い
ところがこの黄金期をきっかけに、「ジャニーズ」という独特の世界がお茶の間に広く浸透することになった。デビューまでの仕組み、さらに所属タレント同士の交友関係やライバル関係など「ジャニーズ」という文化、集合体をよく理解し、より身近な娯楽として感じるようになったのである。
その意味で、「ジャニーズJr.黄金期」はその後旧ジャニーズが勢力を拡大する大きな分岐点となった。そして嵐は、ジャニーズJr.から初めてメジャーデビューしたグループとして、自ずと「ジャニーズ」の象徴的ポジションを占めるようになったのである。
そこに、SMAPと嵐のカラーが違う理由もあるだろう。
SMAPのメジャーデビューは1991年。社会現象となる大ブームを起こした光GENJIの直属の後輩にあたる。
ローラースケートのパフォーマンスで一世を風靡した光GENJIは、いわば王道的アイドルの最高峰。“憧れの王子様”として、十代の女性を中心に熱狂的な支持を集めた。その社会現象的な人気の凄さに、SMAPがバラエティでお笑いをやることに活路を求めた話は有名だろう。
尖りと丸み
『SMAP×SMAP』などで本格的バラエティに挑戦したSMAPは、“普通の若者”として振る舞った。お笑いをやるのに王子様ではいられない。特にフリートークなどでは素の部分を出すことが必要になってくる。
その際、やんちゃさも強調された。それまでアイドルがふれるのを避けてきた恋愛のことも隠さず正直に話す。中居正広や木村拓哉のように、ちょっと不良っぽいところもあった。SMAPの「普通」は、同じ普通でも尖っていた。
SMAPの画期的な成功によって、その後メジャーデビューした後輩グループもみな「普通」であることが基本になった。嵐もそうである。
ただSMAPの“尖り”に対し、嵐の「普通」は“丸み”を帯びていた。尖ったところなどまったくと言っていいほど感じられない。優等生的とも言えるが、それよりは5人の醸し出す仲の良さがそう思わせた。
もちろん嵐にも個性はある。大野智がアート、二宮和也や松本潤がドラマや映画、相葉雅紀がバラエティ、櫻井翔が報道キャスターといったように、個人活動の分野も異なっていた。
だが、より尖った部分が前面に出たSMAPに対し、「ジャニーズJr.黄金期」から登場した嵐はやはり違っていた。「ジャニーズ」の一体感をそのままグループの特徴として出すことができた。幼なじみが集まって和気藹々とやっているかのような普段着の安心感は、嵐ならではの魅力になった。
「お茶の間の人気者」になったワケ
その結果、嵐の「普通」は「普通以上に普通」と言えるくらいのものになった。究極の「普通っぽさ」を武器にした史上まれにみるアイドルグループになったのである。
そしてテレビは、そんな嵐の「普通っぽさ」が最大限に生かされる場だった。私たちの日常生活に密着したテレビでは、いかにありのままでいられるかが人気の条件になる。「普通以上に普通」の嵐はまさにぴったりだった。テレビを見ることが多くなる年末年始の出演本数ランキングの上位独占はその証しである。
冠バラエティ番組にも、テレビと嵐の相性の良さはうかがえる。
『VS嵐』は、嵐がゲストチームとゲームで対決する番組。「バンクボウリング」(ボウリングの要領で60本以上あるピンをできるだけ多く倒す)や「キッキングスナイパー」(サッカーの要領で動く的にボールを当てて倒す)などで競い合う。ベースはスポーツだが、テーマパークのアトラクションと言ったほうがわかりやすい。
思い出すのは、『関口宏の東京フレンドパークII』(TBSテレビ系)だろう。「ウォールクラッシュ」や「ハイパーホッケー」といった、こちらもアトラクション的なゲームに芸能人が挑戦する。カラフルなスタジオの感じも似ていた。
他のスターにはない特徴
ともに夜7時台の放送で、ファミリー向け。難しいことは考えずに誰もが楽しめる番組である。2010年代半ばにはそうしたタイプのテレビ番組も減っていたが、嵐だとそれが成立した。スター性だけでなく究極の「普通っぽさ」を兼ね備えた嵐だからこその番組であった。
この頃の嵐は『紅白』でもアトラクションの主役だった。2015年には映画『スター・ウォーズ』とのコラボでダース・ベイダーと対決する日本版ジェダイの騎士に。また2014年にはアニメ『妖怪ウォッチ』の嵐版キャラクター「アラシニャン」と共演。「普通以上に普通」というのは、ある意味白紙の素材として何にでもなれるということである。そこが他のスターにはない部分でもあった。
一方夜10時台の放送だった『嵐にしやがれ』は、メンバーの素の部分をフィーチャーした企画が印象的だった。演出は『世界の果てまでイッテQ!』や『月曜から夜ふかし』などの古立善之。当時のインタビューで古立は、嵐に「意味のなさそうなことを一生懸命やってもらう」と語っていた。メンバーは体当たりロケに挑み、絶妙のさじ加減でいじられてもいた。
テレビへの適応力の高さ
「大野智の作ってみよう」は、大野のものづくりの才を生かし、マイ包丁などをつくるもの。究極のつまようじというユニークなお題もあった。
「ニッポン再発見!櫻井翔のお忍び旅行」では、外国人観光客に日本の魅力を伝えられるようになるため、櫻井が日本各地を訪れる。だがどこへ行くにもばれないように変装していなければならない。お忍び姿が意外にきづかれず、初めてバレて周囲が大騒ぎになった際は思わず喜んでしまうという“凡ミス”を犯してしまう場面もあった。
松本潤が持ち前のカッコよさに磨きをかけるため色々なことにチャレンジする「THIS IS MJ」も、松本のカッコよさは大前提だが、それをネタにしていじっているようなところがあった。
この『嵐にしやがれ』の場合は、ファミリー向けではあるが、通なバラエティ好きにも楽しんでもらえる企画・演出の面白さが見どころでもあった。その点、嵐のテレビへの適応力の高さを示した番組でもあった。
芸能史上、類を見ない嵐の25年
「普通」と言うといかにもネガティブに聞こえてしまいかねないが、芸能の世界において普通であり続けることは最も困難なことのひとつだろう。浮き沈みの激しい世界では、とにかく人目を引くために変わったことや過激なことをやろうと考えてしまいがちだ。だからこそ、「普通以上に普通」であり続けた嵐の25年余りは、芸能史を見渡してもほかに類を見ないものになっている。
現時点では、来年5月の活動終了までコンサートの開催、そしてファンクラブ向けのコンテンツ配信の予定が発表されているにとどまる。活動終了発表の動画のなかで嵐はファンに直接会うことを望んでいたし、嵐のライブ自体もきわめて評価が高いことを踏まえれば、それも納得だ。
だが、5人揃ってのテレビ出演の可能性がないわけではない。むしろここまで見てきたように、これ以上ないくらいテレビと相性の良かった嵐だからこそ“テレビの嵐”をもう一度見てみたいと思うひとも少なくないはずだ。期待したい。