延々とお題目を述べる清水賢治社長に記者陣もあきらめた
3月31日夜10時半、お台場のフジテレビ本社で記者会見の終了が宣言されたとき、日付を超えて深夜まで行われた1月27日の会見のように、記者席から「なぜ全ての質問を受けないのか」という抗議の声は出てこなかった。
出席者の総計はマスメディアなど98媒体265人。既に夜9時でテレビの生中継は打ち切られていた。10時半時点で何人が残っていたかはわからないが、新聞やテレビの報道記者も、フリーランスのジャーナリストやYouTuber、カメラマンたちもみんな文句を言わず、怒号を飛ばすこともなく、さっさと仕事道具をしまって会場を後にした。
それは会見にたったひとりで登壇し、フジテレビの今後の「再生・改革に向けて」というアジェンダに沿ってお題目を述べるばかりの清水賢治社長では、真実はとうてい明らかにならないという半ばあきらめの気持ちがあったからではないか。
「性加害者=中居正広氏、被害者=女性アナウンサー」と認定
この日はまず、1月の会見で「中居正広さんが加害をしたと断定できる段階ではない」「被害者女性は女性社員とも女性アナウンサーとも言えない」とプライバシーを盾にガイドラインを引かれた、なんともモヤモヤする状態から、ようやくフジテレビが、性加害者=中居正広氏、被害者=フジテレビの社員である女性アナウンサー(既に退職)と認めたことが大きい。
1月28日から新社長となった清水氏はフジテレビではアニメやドラマを作ってきた人。今回の事案の舞台となったバラエティ番組の制作現場とは距離があっただろう(それゆえに新社長に抜擢されたと思われる)。
そもそも、今回の性暴力事件は、中居正広氏に被害者女性を紹介し、事件が起こった後も被害者女性より中居氏のために動いた元編成部長(報告書では「B氏」)が引き起こしたことで、清水社長からすれば、B氏はとんでもないことをしでかしてくれたという本音が、言葉の端々から垣間見えた。どこか他人事感が拭えなかった。
しかし、問題になっているのは、たまたま、おかしなバラエティ番組制作者とおかしなタレントが暴走したという特殊なケースなのだろうか。そこを明らかにする意味で、3月31日に重要だったのは、社長会見の前に開かれた「第三者委員会」の報告会見のほうだった。
企業不正のプロである弁護士たちがフジ内外で聞き取り調査
第三者委員会の委員長は、プロアクト法律事務所の竹内朗弁護士。不正調査のプロであり、2024年には東京女子医科大学の二重給与や不正支出事案の調査等に関する「第三者委員会」副委員長を務めている。今回、格段に注目度の高いフジテレビの会見に臨む竹内氏の表情からは、並々ならぬ覚悟が見てとれた。
「女性が笑顔で復帰するまで何もしない」という無責任な対応
港社長ら3名というのは、港浩一前社長、大多亮専務取締役(現在はカンテレ社長)、執行役員のひとりとされるG氏(編成局長)。第三者委員会の報告書では、このときの対応が最も問題視され、厳しく追求されている。
他の項にもこういった記述がある。
つまり、いやしくも上場会社、しかも総務省から放送免許を受けた企業であるのに、企業不正、危機管理を専門とする弁護士から見て、言語道断、まったくありえない対応だったということになる。筆者も報告書を読んだとき「女性が笑顔で番組に復帰するまで何もしない」という発言のあまりののんきさに、めまいがした。
報告書の記述を使って言えば、「自分の父親と同年代の男性」から「業務の延長上」で「性暴力」を受け、しかも、加害者は番組に出続けていて「会社が守ってくれない」のに笑顔になれるわけがないだろう、という怒りは伝わりそうにない。
被害女性が報告してからも1年以上、中居氏の番組を続けた
時系列を整理すると、2023年6月に中居正広氏がフジテレビの女性アナウンサーに性加害をした。そのことは8月に港社長、大多専務、G氏に報告された。しかし、中居氏の冠番組(報告書では伏せられているが中居正広氏と松本人志氏がMCを務めた「まつもtoなかい」、後続番組の「だれかtoなかい」と推定できる)は、2024年12月まで続いていた。報告から番組の休止まで1年4カ月のブランクがある。
これが、第三者委員会が最も問題視したことではないか。記者会見では竹内弁護士が「中居氏の出演継続は間違っていた」「(番組継続自体が)二次加害という評価」「旧ジャニーズ事務所の問題と比較しても、中居氏の番組を打ち切る必要は格段に高かった」とはっきりコメントした。「フジテレビは社員よりもタレントを優先した」とまで言い切った。
港社長らは、今回の性加害事件を最初はプライベートな男女の関係で起こったこととして片付けようとしたという。「誤った認識」「人権意識が低い」ということは再三、報告書でも指摘されているが、では本当にリテラシーが低いだけで、深刻な問題だと受け止める能力がなかったのかというと、それも怪しい。
港社長らは本当に人権意識が低かっただけなのか?
報告書では、フジテレビの幹部が「中居氏の利益のために(取った)とみられる行動」という項目で、重要な指摘をしている。
「踊る大捜査線」のスリーアミーゴズのようなトップ3人
G氏も執行役員であるからには名前を明かすべきだろうと思うが、港浩一前社長、大多亮専務取締役、G氏の3人は、まるで『踊る大捜査線』の「スリーアミーゴズ」のようだ。フジテレビのドラマの代表作でもある同シリーズの主人公は、織田裕二氏が演じる青島刑事。彼が所属する湾岸警察署の署長(北村総一朗)、副署長(斎藤暁)、刑事課課長(小野武彦)というメガネのおじさん3人がスリーアミーゴズとして人気になった。
スリーアミーゴズのモットーは「警察の仕事はスキのない接待」で、出世のことしか考えず、お偉方に忖度してばかり。「何もしない」は3人の基本スタンスだ。彼らが主人公になった深夜ドラマのサブタイトルは「部下のミスは、部下のミス」だった。その無責任ぶりが、悲しいことに現実のフジテレビ社長たちと重なる。
しかし、スリーアミーゴズにも一分の魂はあった。青島刑事が刺されたとき、警視庁の室井管理官(柳葉敏郎)に「私の部下の命を何だと思ってるんだ!」と猛抗議するなど、部下思いの面を見せ、観客をホロリとさせた。
そんな憎めないキャラクターを作り出したのは脚本家たちと、のちにフジテレビ社長(2013~17年)になった亀山千広氏。そんな亀山氏がフジテレビを去ってから、フジの番組まわりで、いじめや性加害問題などが噴出しているのは偶然なのだろうか。
今回の報告書が出たからには、事件の報告を受けてもいなかった清水新社長をスケープゴートにして済ませようとするのではなく、事件発生当時、社員を守る責任を負っていた港前社長たちが出てきて反省の弁を述べるべきだ。それすらできないようでは、視聴者やスポンサーからの信頼回復は難しく、今後もお台場に日は昇らないだろう。