主体的な子どもが育つ住まいの秘密
本当に勉強のできる子どもは「勉強部屋でハチマキ巻いて、夜食を運ぶお母さんの応援を受けながら勉強」というイメージは、今の時代にはあてはまりません。自分で勉強する必要性を知っていて、能動的に勉強に取り組んでいるからです。
そのため、子ども部屋だけでなくリビングやダイニング、カフェや図書館・自習室などあらゆる場所で集中して効率的に勉強ができます。このように主体的な子どもが育つ住まいには、親が知らないいくつかの共通点があるようです。今回は国立大学医学部の学生アンケートをもとに、エリートが育った住まいについて深堀りしていきたいと思います。
中学受験経験者の半分がリビングダイニングで勉強
アンケートを行ったのは、入試難易度の高い筑波大学医学部の学生56人(有効回答56人:男性25人女性31人、現役31人、1浪20人、2浪3人、再受験2人)。6割の学生が中学受験をしており(図表1)、その中学受験のための勉強は半分の学生がリビングダイニングで勉強していました(図表2)。
リビングダイニングでの勉強は親のそばで見守られながら勉強できるというメリットがあります。また、リビングダイニングにデスクや学用品置き場を設置することで、幼少期から学習習慣も身に付けられます。
中学生になると子ども部屋で勉強した学生が46%ほどと増えますが、リビングダイニングをはじめ塾や図書館・自習室など、子ども部屋以外の場所でも勉強していたことがわかります(図表3)。
寝室と勉強部屋は分けた方がいい
大学受験を控えた高校生になると、64%の学生が塾や図書館・自習室で勉強しており、子ども部屋での勉強は32%と減少(図表4)、また「いちばん集中して勉強できた場所はどこですか」の質問には8割の学生が「塾や図書館・自習室」と答えています(図表5)。
塾や図書館・自習室が支持される理由としては「誘惑がないから」(神奈川県/男性/現役)「集中できるから」(東京都/男性/現役)「ほかの人も勉強しているから」(東京都/女性/現役)「子ども部屋だとつい朝まで寝てしまう」(群馬県/男性/現役)など、自習室や図書館には「睡眠」や「遊び」の誘惑が少ないことがわかります。
したがって、子ども部屋に「勉強」機能と誘惑の多い「趣味/遊び」の機能や「就寝する」機能は一緒に持たせないほうが良く、子ども部屋から「勉強部屋」または「勉強スペース」を独立させることが大切です。中学から高校まで学年1番をとり、部活の部長としてもリーダーシップを発揮していたAさんは「勉強する部屋とそれ以外の部屋が分かれているので短い時間でも勉強に集中できた」(千葉県/女性/現役)と答えています。
子ども部屋が無かった医学生もいた
次に「子ども部屋は共同部屋だったか? 個室だったか?」など、子ども部屋のスタイルについても聞いてみました。結果は、個室だった学生が64%と過半数を占めています(図表6)。
しかし、個室を持っていた子どもでも「子ども部屋は持っていたが、寝る以外まったく使わなかった」(茨城県/女性/現役)「子ども部屋は寒いので、リビングでずっと勉強していた」(東京都/女性/現役)などの意見がありました。
また兄弟姉妹と一緒の共同部屋だった学生たちは、「子ども部屋が一番好き」という意見もあり、その理由として「姉と弟との3人部屋。一番落ち着くから」(福井県/男性/現役)「兄弟の部屋が自分たちの城みたいな感じで楽しいから」(東京都/男性/現役)などをあげており、兄弟姉妹の仲が良いようです。親にとって兄弟姉妹が仲良く、生涯にわたり助け合うことは何よりもうれしいことですね。
その他にも「家族が寝る部屋に自分の勉強机があっただけで、自分の部屋はありませんでした」(千葉県/現役/女性)など、子ども部屋自体が無かった学生もいたことには驚きを隠せません。
多機能な子ども部屋は成長を阻害する可能性も
これらの結果から、子ども部屋で勉強する時期は中学生の一時期が多いことから、「デスクもインターネットも、テレビもベッドも完備」など、多機能で広い子ども部屋を整えてあげることはエリートを育てるには必ずしも必要でないことがわかります。そればかりか、インターネットやSNSが日常の子どもたちにとって「引きこもれる」子ども部屋は、子どもの成長にとって弊害になる可能性さえあります。
また忍耐力や協調性など社会生活に必要な「非認知能力」を伸ばすのであれば、幼いころから共同部屋で育てる方針もありではないかと考えます。
しかし、子ども部屋は思春期には「安心して就寝するためのパーソナルスペース」「自分の好きなものを管理保管(収納)できるスペース」としてシンプルに整えてあげる必要もあり、共同部屋にする場合は、狭くてよいので「一人になれるスペース」を間仕切りやカーテンなどで作ってあげることが大切です(図表7)(図表8)。
家が荒れていると家族仲も荒れている
次にリビングダイニングについても見てみましょう。リビングダイニングは、子どもにとって家族が集まる場所以外にも、前述のように「勉強をする」場所など、子どもの成長にとって大切な場所です。ですので、このリビングダイニングが散らかっていたり、家具を置きすぎて狭くなったりすれば、家族が集まる場所として機能しにくくなり、さまざまな問題を生みます。
実際に私の事務所に住まいのご相談に来る方の多くは「家が荒れている」と同時に、子どもが勉強しない、親の言うことを全く聞かない、親子の会話がなく子ども部屋にひきこもりがちなど「家族仲も荒れている」状態の方が多いように感じます。
一方、医学部生に聞いた「自宅で一番好きな場所」としては「リビングダイニング」が49%と「自分だけの部屋」の31%を差し置いて1位になっています(図表9)。その理由として「テレビなどの娯楽もあり、こたつやペットなど安らげる環境もあり、1番落ち着く場所だから」(茨城県/女性/現役)「家族で団らんしたいから」(東京都/女性/現役)「リラックスできる場所だから」(東京都/女性/現役)「みんながいるから」(千葉県/女性/現役)「家族と話す時が一番落ち着くから」神奈川県/女性/現役)など、家族仲が良く親子の信頼関係が成り立っている意見が目立ちます。
エリートが育つ住まいの肝はリビングダイニング
また「自宅に必ず必要だと思う部屋(トイレ/浴室を除く)を1つだけ選んでください」の質問には、63%と過半数の学生がリビングダイニングをあげており、「自分だけの部屋」24%との差が明確に出ています。つまり「家族とのコミュニケーション」が何よりも大切だと感じている学生が多く、自分や家族を大切に思う能力が育っていることがわかります(図表10)。
このことから、エリートが育つ住まいにはリビングダイニングが大変重要であり、家具配置は「家族が集まりやすい」「リラックスできる」ことを優先してプランすることが大切です。
広いリビングダイニングは必要ない
とはいえ、リビングダイニングにそれほど広さは必要なく、10畳ほどあればOKです。例えばこちらは9畳のリビングダイニングの様子です(図表11)。家族が集まりやすいリビングダイニングにするには、ただダイニングテーブルセットやソファを置くのではなく、ひと工夫してみます。
一般的にダイニングチェアはダイニングテーブルと同じシリーズのものをまとめて4脚程度一緒に購入されると思います。しかし、座高や脚の長さ・おしりの大きさなど、家族の体格も違うのにすべて同じダイニングチェアは誰かが座りにくいものです。ダイニングチェアが座りにくいと居心地はよくないので、長居はしなくなるもの。そこで、図表12のようにダイニングチェアをパパママ兄弟姉妹、家族それぞれ好きなものに変えてみましょう。選び方としては、ダイニングだからといってダイニングチェアの中から選ぶ必要は必ずしもありません。座り心地やデザイン、色が自分好みで大きすぎなければ、オフィスチェアやゲーミングチェアでもよいのです。もし椅子のデザインがばらばらな場合は、椅子の色やトーン・素材に統一感を持たせてみましょう。
ソファは会話が弾みやすい配置に
次にソファです。図表11で置いている3人掛けのソファは、横並びにしか座ることができません。横並びでは、会話も弾みませんよね。そこで、ユニット/モジュールソファを使い、図表12のように会話がしやすいように対面に配置してみます。ユニットソファとは、1人掛けタイプ、2人掛けタイプ・カウチタイプ・オットマンなど複数のソファを自由に組み合わせて、好きなように配置のできるものです。配置の自由度も高く、気分が変わったときに模様替えしやすい商品になります。
いかがでしょうか? 対面にソファが配置されたことで、家族が自由に座ることができます。自由度が上がると、子どもたちもリビングダイニングにお気に入りのスペースを見つけやすく、自然とリビングダイニングに集まりやすくなります。もちろん、家族の会話も弾みますね。
親の過干渉は禁物
最後に「住まいに対する不満」についても見ていきたいと思います。「自宅で不満だったこと」として、「トイレが1つだったのでトイレ争いが起きた」「収納スペース(押し入れ)が狭いこと。押し入れが狭く、荷物の整理が大変だった」「お風呂場。とても寒かったから」などの機能面があげられました。その一方で、トイレや浴室に関しては、自分の子ども部屋があっても、一番好きな場所としてあげている学生がいることは意外でした。その理由として、「風呂。一番くつろげるから」(東京都/女性/現役)「浴室 ゆっくり考え事とかできるから」(神奈川県/男性/現役)などをあげており、トイレや浴室を単なる排泄や洗い場としてではなくリラックスできる空間にすることも大切に感じます。
その他にも「家族が色々注意すること、鬱陶しいから」「親の過干渉、自分のことは1人でなんとかしたいから」など心理的なものも「自宅で不満だったこと」としてありました。このことから、親は干渉しすぎず、かつ、孤立しない子ども部屋の間取りや配置が大切なことがわかります。
いかがでしたでしょうか? アンケート結果からエリートが育つ住まいには「完全個室の立派な子ども部屋」は必ずしも必要ではないことや、「家族が集まりやすいリビングダイニング」が大切なことがわかります。そのほか集中して勉強できるためには、勉強する空間を誘惑の多い子ども部屋から独立させることもポイントです。また思春期の子どもには過干渉になりすぎない住まいの工夫も大切ですね。自宅の購入時や住まいの模様替え時に、ぜひ参考にしてみてください。