※本稿は、西崎彩智『人生が変わる 片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
汚い家に帰りたくなくてカフェに直行
これまで片づけに悩むさまざまな人の家にお伺いしてきましたが、家が片づいていない人は、無駄な出費が増える傾向があります。実際にどのような家に住み、どのような出費が発生しているのでしょうか?
今回は、過去に片付けについて相談を受けた2名のケースをそれぞれ紹介します。
「キッチンや引き出しの中はけっこうきれいだったんです。でも、部屋の中にモノが散乱していて、片づけなきゃいけないとわかっていても見て見ぬふりをしていました」
そう語るのは保育士として働くユキさん(55歳・保育士)。旦那さんとの2人暮らしです。
「一度パントリーの中を片づけたことがあって、そこだけが癒やしの空間でした。ちょっと座れるくらいの広さがあるんですが、汚いリビングにいたくないので、そこに入って本を読んだりしていましたね」
片づけは進まないのに、大好きなフリマアプリを見ては買い物をする毎日。いつのまにか、収納場所からはみ出たモノが家の中に広がっていきました。
「仕事から帰ったら片づけようって、いつもイメージはしていました。でも、玄関を開けた途端にやる気がなくなって、ソファでダラダラしちゃって……」
汚い家に帰るのが嫌で、仕事が終わるとカフェで何時間も過ごしてから帰ったことも。片づけに関する本を読んで実践したこともありましたが、納得できるところまでは片づけられませんでした。
夫とはたまに「片づけようね」と話をするものの、お互い積極的には動きません。この状態をなんとかしなければと、ユキさんは片づけ始めます。なかなかモノを捨てられなかったユキさんのモノへの執着心を和らげたのは、ずっと保管していたブランドの洋服をリサイクルショップに売ったとき。
寄り道、ネットショッピングに興味がなくなった
「10着で7千円くらいになったらいいなって思っていたけれど、実際はたったの420円! 今まで420円にこんなに執着していたなんて、ショックでしたけど、なんだかスッキリしました」
手に入れたのはくつろぎの空間と“自分でできた”という自信。片づけが終わったとき、今まで得られなかった満足感がありました。リビングで寝そべることが好きな夫も、スペースが広くなって心地よさそうです。
「もし誰かにお願いしてきれいにしてもらっていたら、きっとまた汚くなってしまうでしょう。自分の手で片づけたことに意味があると思います」
かつての“帰りたくない家”は、“早く帰ってくつろぎたくなる家”に変わりました。今では、仕事終わりの寄り道は一切ありません。
「あんなに好きだったフリマアプリも見なくなりました。何も買いたくないんです。家でソファに座ってコーヒーを飲むだけで、ものすごく快適」
ユキさんは、片づけを通して「とにかく動く!」ということを意識するようになりました。
「実際に動くことで、“自分でできた”という自信が持てるようになりました。次は料理やインテリアも頑張って、さらに生活をブラッシュアップしていきたいですね」
「またできなかった」…ストレスを繰り返す週末
散らかっている家にいると、人は知らないうちにストレスを感じています。目に入る情報量が多いために脳が疲れてしまうことが大きな原因です。
さらに「片づけなきゃいけない」と思うことも原因の一つ。「きれいな家で暮らしたい」という理想があるにもかかわらず、現実はそうなっていないからです。
ミオさんも、そのようなストレスをずっと抱えていました。
フルタイムで働く仕事の忙しさに加え、料理や洗濯、2年前に迎えた犬のお世話などを優先すると、時間はあまり残りません。
「週末になったら片づけようと思っても、結局片づけられない。日曜日の夜になると『またできなかった』と後悔することのくり返しでした」
夫も片づけが得意ではなく、同じようにストレスを抱えている様子でした。夫と自分、そして愛犬も過ごしやすい家にしたい。変わりたいという思いで、苦手な片づけに着手しました。
多めに買わないと不安になる…のにストックは見えない場所へ
ミオさんはモノのストックがあると安心するタイプで、買い物のときについ多めに買ってしまいます。これが、家が散らかっている大きな要因でもありました。次に買う目安の残量を決めたり、買うまでに時間をおいて検討したり、家の中に置くモノの量を減らすことを徹底しました。
また、収納場所にデッドスペースがあると押し込むようにモノを入れていましたが、そうすると取り出しにくくて戻しにくい。これも散らかることにつながります。デッドスペースはそのまま空いた状態にすることにしました。
すると、家の中がスッキリしてきました。
「余白ができると、気持ちにもゆとりができたように感じます。少しずつ片づけが終わるごとに、ずっと心にあったモヤモヤが減っていきました」
お掃除ロボットも犬も走り回れるようになり、犬の表情も前より豊かになりました。
ミオさんは、片づけができない自分への劣等感や、「片づけないと」と思う焦燥感から解放され、次の夢も教えてくれました。
「職場で接する生徒の中には、家庭でモヤモヤを感じている生徒もいます。片づけられなかった頃の私と同じように、何か気持ちの整理ができていないんじゃないかな、と。方法は検討が必要ですけど、生徒たちのモヤモヤも解決してあげたいです」
「お金が貯まらない家」に住む人の3つの悪習慣
家から少しずついらないモノを出していっても、またどんどん新しいモノを部屋の中に入れてしまってはいつまでたっても片づきません。特に気をつけたいのは、次のような方です。
・セール品・限定商品に弱い
人間は「得をしたい」と思うより、「損をしたくない」と思う気持ちの方が強く出る、と言われています。セール品や限定商品をつい買ってしまう行動もこれを逃すと損するのではないかという“不安”から買い物に駆り立てられているのです。
・新しい製品が出ると買いたくなる
新しいモノを買うのが好きな人の中には、買ってしまうとそこで満足してしまい、数回使うとどこかにしまいっぱなしにしてしまうことも。また新しいモノを物色したり、それを買ったことさえ忘れて同じようなモノを買ってしまう人もいます。
・モノを買うことでストレスを発散している
毎日忙しくて心に余裕がないと現実逃避をするかのように、ネットショッピングや“推し活”に夢中になる人がいます。そこで不要なモノやグッズ購入などをして部屋の中にモノが堆積するという結果に。
未就学児のお子さん2人がいるMさんも冒頭で紹介したユキさん同様に、フリマサイトで買い物をすることが日常の楽しみであり、ストレス発散でもありました。子ども服はサイズが合わなくても、もうじき大きくなるから、とポンポン買い込んでいました。買ったモノを押し入れにしまい込んでいた結果、気づいたらほとんどサイズアウトしたモノばかりになっていたそう。これなどは典型的な「買って満足」してしまったケースです。
私は、「モノの量は家事の量」ということを受講生の皆さんによくお伝えしています。ペットボトル1本だって家に持ち込んだら、ペットボトルの中を水ですすぎ、ラベルを剝がし、ゴミ箱にまとめ、ゴミの日に持っていくという家事が生まれます。
そう考えると片づけや家事はモノを家に入れる前から始まっています。家族に家事を任せる前に、「この量だったらできる」と思える適正な家事のボリュームにしておきましょう。そこで最初にできるだけモノを取捨選択して、不要なモノを家から出し、量を最適化するのです。
ちなみにわが家では、タオルは一人3枚と決めています。枚数が少ない分、本当に自分が使い心地のいいタオルを厳選し、使ったら洗濯し、乾いたらまた使う、ということを繰り返しています。くたびれてきたら、パッと全部交換。来客用のタオルは何枚か用意していますが、置いておいても気分が上がらないお店や会社のロゴが入ったタオル、手拭いなどは家に置かないようにしています。家族が多いご家庭なら、一人3枚もいらないかもしれません。基本、朝洗えば夕方には乾いているのですから、そのまま使えばいいのです。ストックしてあるモノを新たに使うと洗濯物はどんどん増えてしまいます。食器類も普段使う数は決めていて、使う、洗う、しまう、の家事をできるだけシンプルにするようにしています。
毎月の支出が数万円減少した人も…
これまでは買うことが大好きだった人も、片づけを始めてモノを捨てる大変さを知ると、本当に必要なモノだけに囲まれて暮らしたいと思うようになります。そうすると買い物も減って、結果、毎月の支出が数万円単位で減ったという方も。
そもそも家の中に、子ども部屋でも書斎でもなく、使わないモノでいっぱいになっている物置部屋があるとしたら、その部屋にも家賃やローンを払っていることになります。そちらの方がもったいないと思いませんか? 片づけをすると、家事を効率化し、金銭感覚が磨かれるようにもなります。
・○○専用という調味料は買わないで自分で作るようになりました
・以前はよく買っていた百均の便利グッズにもときめかなくなりました
このような声をよく聞きます。
本当に欲しかった心落ち着く空間が手に入ったら、買う必要のないモノも自然にわかるようになりますよ。